感染症発生動向調査からみた腸管出血性大腸菌O91感染者報告の動向とその特徴、2005〜2009年
(Vol. 31 p. 169-170: 2010年6月号)

腸管出血性大腸菌(EHEC)O91感染者の報告数は、2005年以降2009年まで年々増加し続けている。この理由として、2005年に国内で追加販売されたO群別試験用免疫血清の一部にO91が追加されたことにより、保健所や民間検査センター等の検査機関で型別が可能となったことが推察される(本号17ページ)。今回、EHEC O91感染者の疫学的特徴と近年の海外におけるEHEC O91の知見についてまとめた。

2005〜2009年に感染症発生動向調査で報告されたEHEC O91感染者の報告数は、年別に各々19、21、36、48、58例の計182例であった。そのうち、患者が27例(15%)、無症状病原体保有者が155例(85%)、性別は男性44例、女性138例(男女比1:3.1)で、女性が多かった。年齢中央値は35歳(0〜88歳;男性36歳、女性33.5歳)、年齢群でみると15歳未満は9例(4.9%)と少なく、EHEC感染者全体の年齢分布(本号2ページ特集図3)と異なっていた。また患者に限ってみても、15歳未満は4例、15歳以上が23例で、ほとんどが成人であった()。

EHEC O91感染者の報告都道府県数は、2005年が10道府県であったが、その後2007年に17都道府県、2009年に21都道府県と増加し、5年間でのべ35都道府県から報告されている。計182例の報告は、石川県36例、福岡県34例、宮崎県14例、北海道、大阪府各11例の順に多かった。感染地域は、国外感染1例、感染地域不明2例を除いた179例(98%)が国内であった。

情報の把握できた159例に記載されていた職業は、調理師や栄養士、食品製造・加工・販売業などの食品関連従事者が69例(43%)で最も多く、次いで保育士25例(16%)、会社員/公務員24例(15%)、学生10例(6.3%)の順に多かった。他に看護師、介護職、病院スタッフなどが少数ながら報告されていた。また、「定期健診・検便・検査時に判明」との記載が18例(11%)にあり、その中には職業が会社員、学生も含まれていた。

182症例の報告時のVT型は、VT1が152例、VT1&2が25例、VT2が4例、VT不明1例であった。患者27例の症状の内訳は、腹痛18例(67%)、水様性下痢16例(59%)、発熱11例(41%)などの比較的軽い症状がほとんどであった。一方、血便を示した症例が5例(1歳、9歳、28歳、30歳、70歳)あり、VT型はVT1が3例、VT1&2が1例、VT2が1例であった()。脳症や溶血性尿毒症症候群(HUS)、急性腎不全、溶血性貧血などに重症化した症例はなかった。

上述したように、O91感染者の報告はほとんどが無症状病原体保有者であり、15歳未満の小児は少なく、食品関連従事者や保育士が多く、定期検便・検査時の判明によるものが多いと推察された。O91感染者報告数の増加は、前述のように新たに追加で市販された抗血清により、型別不能であったO群が同定可能となったことが一因と思われるが、2008年に改訂された「大量調理施設衛生管理マニュアル」で、従来調理従事者に対してO157のみが対象とされていたEHECの検査について、O157以外のEHECも含まれるようになったことも影響しているものと考えられる。

EHEC O91に関する報告は、国内のみならず海外においても少ない。しかし、近年のドイツでの調査によると、EHEC O91は成人で最も頻繁に同定される血清群で、患者・食品両者から高頻度に分離される血清群であった1) 。O91が分離された食品として、生の軟質ソーセージ、挽肉、未殺菌の牛乳、チーズなどが報告されている 1,2)。さらに、最近ではO91:H21の血清型が、他のO91の血清型と比較して、HUSや血便を発症しやすいという報告がされている 3,4)。O157が保有する病原性遺伝子群LEEを持たないO91に関し、変異型VT2毒素産生遺伝子(stx 2dactivatable)や細胞壊死性膨化毒素遺伝子cdt -Vなど複数の病原因子が重症化との関連を疑われている。ちなみに、日本におけるO91:H21の分離報告は、全国の地方衛生研究所から2006年以降11件(VT1が9件、VT1&2が2件)が報告されている 5)。しかし、VT1の1件を除いてすべて無症状病原体保有者からの分離であり、VT2の遺伝子型や他の病原因子に関する情報は不明である()。

2010年は第1〜18週までに14都道府県から26例が報告されている。これは過去5年で最も多かった昨年(2009年)同期間までの報告数13例の2倍である。食品従事者等の検便・検査時の対象菌株として、O157以外のO血清群に対するEHEC検査が増えることにより、今後もO91感染者報告数は増加するものと予想され、重症化にかかわる病原因子の調査も必要と思われる。

最後に、本報告をまとめるにあたり、症例届出や問い合わせ等にご協力いただいた地方感染症情報センターならびに地方衛生研究所、保健所、民間検査機関の担当者の皆様に深謝いたします。

 参考文献
1) Werber D, et al ., EID 14: 1803-1806, 2008
2) Hussein HS, et al ., J Dairy Sci 88: 450-465, 2005
3) Mellmann A, et al ., EID 15: 1474-1477, 2009
4) Bielaszewska M, et al ., J Clin Microbiol 7: 2061-2066, 2009
5) IASR, http://idsc.nih.go.jp/iasr/virus/graph/vtec0009.pdf

(注):感染研・細菌第一部に送付されたEHEC株血清型別成績の集計では、2004年以降ヒト由来のO91:H21株は合計25株(VT1保有株が21株、VT2保有株が1株、VT1&2保有株が3株)あり、このうち有症者由来株は血便由来の1株を含む計5株(VT1保有株が2株、VT2保有株が1株、VT1&2保有株が2株)となっている。

国立感染症研究所感染症情報センター
(担当:齊藤剛仁 伊藤健一郎 砂川富正 古宮伸洋 島田智恵 多田有希)

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