感染症発生動向調査からみたO157、O26、O111以外のO血清群による腸管出血性大腸菌感染者報告数の推移、2005〜2009年
(Vol. 31 p. 168-169: 2010年6月号)

2005年8月、それまで市販されていた大腸菌抗血清(“病原大腸菌免疫血清「生研」1号セット(デンカ生研)”、混合1〜8)で型別できない腸管出血性大腸菌(EHEC)O血清群のうち、当時国内で分離頻度の高かったO血清群について、混合血清「混合9」(単味血清としてO74、O91、O103、O121、O145、O161、O165を含む)が追加で市販された。これにより、それまで型別不能であったこれらのO血清群の同定が保健所や民間検査センター等の検査機関でも可能となった。

日本で報告されたEHECのO血清群は、これまでO157、O26、O111の順に多く、この3種で報告数全体の9割以上が占められてきた(http://idsc.nih.go.jp/disease/ehec/index.html: IDWR2005〜2008年)。2005〜2009年に感染症発生動向調査で報告されたEHEC感染者のうち、これら3種のO血清群に次いで多かった主なO血清群の年別報告数推移を示した()。なお、2009年はO157(2,549例)、O26(716例)、O121(90例)、O103(81例)、O111(80例)、O91(58例)、O145(46例)、O165(11例)の順に多く、O111の報告数が減少して100例を下回り、第5位の報告数となった。

O121は保育所における集団感染が2007年と2009年(本号11ページ)に発生したことで増加し、2009年は全体で第3位の報告数(90例)となった。O103は2006年に保育所(IASR 28: 118-119, 2007)、2007年に保育所と老人施設、2008年に保育所における集団感染が発生したことで報告数が急増し、2008年は113例の報告があった。O145は2007年に小児の集団感染、2008年に保育所と幼稚園における集団感染(IASR 30: 130-132, 2009)が発生したため増加し、2009年にも保育所に関連した集団感染(本号15ページ)が発生した。O91の集団感染はこれまで認められていないが、2005年以降報告数は増加し続けており、2009年は過去5年間で最も多い報告数(58例)となった。O165は例年10〜20例前後の報告数であった。

このように新たな抗血清の市販後、新規追加血清群に型別されたEHECへの感染者報告数は増加しており、報告のあった都道府県数も年々増加傾向にある。O103、O121、O145のEHECは、保育所、幼稚園、高齢者施設において集団発生を引き起こしており、報告数増加の一因となっていた。一方、O91はほとんどが無症状病原体保有者からの報告であり、他の血清群のEHECと比べて、感染者の特徴が異なっていた(本号18ページ)。

なお、本報告を集計するにあたり、症例届出や問い合わせ等にご協力いただいた地方感染症情報センターならびに地方衛生研究所、保健所の担当者の皆様に深謝いたします。

国立感染症研究所感染症情報センター(担当:齊藤剛仁 伊藤健一郎 多田有希)

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