2010(平成22)年第4週における国内におけるインフルエンザ定点からの報告患者数は200万人に達し、受診患者数は推計約2,059万人超となった。これは過去10年間でインフルエンザ(季節性インフルエンザ)の流行が最大であった2004/05シーズンの報告患者数148万人(推計1,770万人)を超えたが、ピークの高さは季節性インフルエンザのそれを下回った。一方、流行期間を定点当たり報告数が1.0を超えた週数としてみると、これまでの通常13〜19週間、最長25週間(2008/09シーズン)を大きく上回った29週間となった。
症状・合併症・死亡例
パンデミックインフルエンザの典型的な症状は、季節性インフルエンザとほぼ同様であった。季節性インフルエンザでは高齢者の二次性肺炎が多いが、パンデミックインフルエンザでは、若い年代でのウイルス性肺炎が多く見られた。発症者の年齢分布は5〜14歳に多く、中高年では少なかった。ただし、中高年層での発症および死亡数は少ないものの、いったん発病した場合の致死率は小児をはるかに上回った。入院患者の1/3程度は基礎疾患を有するものであるが、基礎疾患のないものでも重症化することが小児で多く見られた。感染症法に基づいて届け出られたインフルエンザ脳症患者数は300例近く(2010年1月27日現在)となっている。年齢層は、従来幼児での発生が多かったが、今回は小学校低学年層にそのピークが移っている。
わが国で推計される累計患者数2,100万人(2010年第13週)のなかで、厚生労働省に報告(2010年3月31日まで)された死亡者数は198人(8月末で203名)であり、人口10万当たりで比較をすると、海外の多くの国に比して著しく少ない割合であった(表1)。
一方、西藤ら小児科開業医を中心として運用されている「MLインフルエンザ流行前線情報データベース」(http://ml-flu.children.jp)によれば、一線小児科医から入院医療機関への紹介率は、季節性インフルエンザのおよそ10倍になったことが報告されており、小児科開業医における重症感は、季節性インフルエンザのそれを上回ったといえる。
ウイルス検出報告
AH1pdmが最初に検出された5月頃にはAH3亜型が優位であったが、第24週(6月8〜14日)頃より明らかにAH1pdmが優位となり、7月以降のインフルエンザ患者のほとんどは新型インフルエンザとみなされた(本号6ページ参照)。
世界の状況(2010年8月)と今後
2010(平成22)年8月10日現在、南半球においては、全体としてインフルエンザの活動性は低く、H1N1 2009が最も多く検出されているが、H3N2およびB型も検出されている。また北半球の温帯地域では2010年8月10日現在H1N1 2009および季節性インフルエンザの流行は見られていない。
2010年8月10日WHOはPHEIC(Public Health Emergency of International Concern:国際的に重要な公衆衛生上の事例)を解除し、それまでのパンデミックフェーズ6をpost-pandemic(後パンデミック期)とした。名称からも[pandemic]をはずしつつある。しかしパンデミックをきたしたウイルスは今後もしばらくは存在し続けるであろうし、当然抗原性が変化することもあるため、今後の流行状況については予断を許さない。また、わが国では成人の感受性者が多く残っていると考えられ、再流行が成人中心に起こると、重症者や死亡者が増えると考えられるため注意が必要である。
国立感染症研究所感染症情報センター
岡部信彦・パンデミックインフルエンザ対策チーム