麻疹ウイルスを直接証明する方法による検査診断の必要性
(Vol. 31 p. 265: 2010年9月号)

麻疹排除に向けた対策の柱として、質の高い全数サーベイランスがある。「麻しんに関する特定感染症予防指針」に基づく麻疹全数把握は、エビデンスに基づいた麻疹対策に大きな成果を挙げた。2008年に11,015人であった患者報告数は2009年には741人にまで減少し、2010年は第33週時点で353人と、さらに減少している。1人の患者発生ですぐに対策を始めると、二次感染の拡大防止に繋がることが各地で経験されており、最近はこの対策があたり前になりつつある。

ところが最近、新たな問題点が浮上してきた。いわゆる、麻疹と診断された患者の中に麻疹ではない症例が紛れ込んでいることである。中村、富樫らは、本月報(2010年2月麻疹特集号:特集関連記事)で、既にこの問題点を取り上げ報告しているが、2010年は地域的に伝染性紅斑が流行していることから、紛れ込み症例が相次いで報告された。そこで今月、緊急ミニ特集を企画することとした。

2010年の報告患者は麻疹含有ワクチンの接種歴がある1歳児が最多である。麻疹の非流行期に、ワクチン接種後間もない1歳児が麻疹を発症するか疑問である。麻疹以外の疾患で麻疹と診断されると、患者本人にとってもその後の麻疹予防が不十分となる。

麻疹排除に向けてわが国に必要な麻疹対策は、2回の麻疹含有ワクチンの接種率をそれぞれ95%以上に上げるとともに、麻疹と臨床診断された患者については、急性期の血液(EDTA血)、尿、咽頭ぬぐい液の3点セットを地方衛生研究所に送付し、麻疹ウイルスの直接検出による検査診断を実施することである。ウイルスが検出されれば、輸入例かどうかの判断も可能となる(本号24ページ参照)。健康保険適用のある麻疹抗体価の測定は臨床医に馴染みの深い検査方法であるが、急性期の検体からRT-PCR法による麻疹ウイルス遺伝子の直接証明を含めた複数の検査診断による麻疹の診断を徹底することこそ、現在のわが国に求められている麻疹対策であると確信している。

IASR編集委員会

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