入浴施設のシャワー水のレジオネラ汚染状況
(Vol. 31 p. 332-333: 2010年11月号)

2009(平成21)年10月、医療機関から保健所へレジオネラ症発生の届出がされた。調査の結果、患者が利用した公衆浴場のシャワー水から検出されたレジオネラ属菌と患者喀痰から検出された菌が遺伝子的に一致した。これによって、公衆浴場のシャワー水が感染源とわかった(本号20ページ参照)。

今回の事故の発生により、シャワー水の危険性を把握した。そこで、公衆浴場、社会福祉施設、循環式浴槽を持つ旅館のシャワー水の検査を実施したので、検査結果を報告する。また、レジオネラ属菌の侵入経路として考えられるリスク因子について考察する。

表1から分かるように、検出した施設はすべて普通公衆浴場であった。

普通公衆浴場12施設(A〜L)で採水した24検体のレジオネラ検査結果を表2に示す。

普通公衆浴場においてレジオネラ属菌の侵入経路として考えられるリスク因子について考察する。原水が上水道ではなく井戸水を使用していること、湯と水を混合する開放された調節箱を有していること、シャワー系統が循環利用されていることがあげられる。

最初にレジオネラ属菌が検出された普通公衆浴場1施設を含む普通公衆浴場13施設はすべてこのリスク因子を有していた。ただし、調節箱は12施設が開放型で1施設は密閉型の調節箱であった。その他の公衆浴場、社会福祉施設、循環式浴槽を持つ旅館のシャワーでは、これらのリスク因子を有する施設は認められなかった。

普通公衆浴場では原水に井戸水を使用している。そこで、4施設について井戸水を検査したところ、レジオネラ属菌は検出されなかった。レジオネラ属菌は36℃前後での繁殖が盛んである。原水の井戸水は、温度が20℃前後と低温のため繁殖源の可能性は低いと考えられる。

普通公衆浴場では調節箱を有している。ここで、水と湯を混合させて温度調整をして、シャワーと蛇口(カラン)に供給している。

図1に示すとおり調節箱が開放されていると、外からの土ぼこり等の侵入を防ぐことが困難である。土ぼこり等にレジオネラ属菌が混入している場合、発生源となりうる。しかし、図2に示すような密閉型の調節箱を使用している施設でもレジオネラ属菌を検出した(表2、施設H)。密閉型の調節箱の方がより望ましいが、完全にシャワー設備へのレジオネラ属菌の侵入を防ぐことは困難であることが分かる。

普通公衆浴場でシャワー水は、配管と調節箱の間を循環している。一般に、レジオネラ属菌が繁殖しないために貯湯槽において温度60℃以上を保持させることが有効である。

ところが、普通公衆浴場の場合は、シャワーとカランに湯を供給する調節箱で利用者の安全上、60℃以上を保持することができない。営業中の調節箱内の湯の温度は37〜50℃を保持している。

また、調節箱は排水できない構造になっている。循環が止まった夜間に、湯が調節箱および配管中に滞留した場合、レジオネラ属菌繁殖の適温である36℃前後になる可能性がある。

まとめ:今回の調査の結果、調節箱を通る循環式シャワー水の危険性が把握できた。しかし、現在の関係法令ではシャワー水の水質基準および衛生管理について規定されていない。

シャワー水の危険性について保健所の環境衛生監視員はもちろん営業者が認識しなくてはならない。

レジオネラ属菌は侵入してくるものと考えて浴槽水同様、毎日の塩素の添加、週に1回以上高濃度塩素による消毒、月に1〜2回程度シャワーヘッドの消毒、年に1回以上調節箱を含むシャワー系統の配管洗浄、レジオネラ属菌水質検査の実施等、日常の衛生管理が重要である。

文京区文京保健所
岡部咲子 大脇 彩 石山康史 濃沼正紀(現、文京区資源環境部) 中臣昌広 山下靖之

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