2010年に人から広域に分離されたEHEC O157のPFGEパターンのクラスター解析
(Vol. 32 p. 128-129: 2011年5月号)

国立感染症研究所細菌第一部に送付され解析を行った2010年分離のヒト由来腸管出血性大腸菌(EHEC)は2,448株あり、そのうちO157は1,819株、O26は346株あった(2011年2月現在)。

2010年にはXba Iによるパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)パターンがO157で784種類(このうち2010年に初めて分離されたものはf1〜f661)みられ、少なくとも三つ以上の異なる都府県から分離された同一PFGEパターンが34種類あった。このうち、七つ以上の都府県から分離されたO157には6種類の泳動パターンがあった[Type No.(TN) c57、c293、d482、f34、f93/91、f779、図1]。TN c57、c293は2007年から継続的に分離されているパターンであり、TN d482は2008年に初めて分離されたパターン、TN f34、f93/91、f779は2010年に初めて分離されたパターンである。

これらの株についてBln IによるPFGEパターンを比較しても、それぞれのパターンにおける変異型はほとんどみられなかった。それぞれのパターンを示す株の分離期間は、TN c293が約10カ月と長く、f34が約1カ月であり、その他は3〜4カ月にわたって各地から分離されていた。また、TN f93/91を示す株は、6〜7月にレバーを推定原因とする、名古屋市での食中毒事例(本号5ページ参照)および愛知県内の複数の焼肉店関連事例より分離されており、関連は不明だが、その後も関東・東海・中部地方における複数の事例から分離された(図1)。

これらの株について、Multiple-locus variable-number tandem repeat analysis(MLVA)法により9種類の遺伝子座におけるリピート数について調べると、複数の遺伝子座でリピート数が異なる株があったことから、その遺伝学的な多様性が示唆された。MLVAタイプ間の関連性をMinimum Spanning Treeで図2に示す(円の大きさは分離株数に基づき、距離は変異の度合を反映する)。分離期間が短いTN f34を示す株は、リピート数の一致する株(大円で表示)の集合体であるが、その他の株ではリピート数が少しずつ異なっている株(変異株;枝分かれした小中円で表示)が集合して構成されていることがわかる。特に分離期間が長期にわたるTN c293、c57およびf93/91の株では、多数の変異株が集合しており、多様な遺伝子型の株が含まれていることが示唆された。TN f779を示す株については、変異株があるものの、大部分(31株中22株)が集団発生由来株で報告されているわずかなリピート数の変異、すなわち、1遺伝子座について繰返し数が一つ異なる変異を示す株であった。

PFGEタイプが同一である株にも、分離時期が長期に及ぶ場合には変異株が含まれていることがある一方で、MLVAにおいても同一タイプの株については、その関連性が高いと考えられる。このような株による広域発生事例を早期に探知し拡大を防ぐとともに、原因究明に向けた対策が重要である。

国立感染症研究所細菌第一部
寺嶋 淳 伊豫田 淳 泉谷秀昌 三戸部治郎 石原朋子 大西 真

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