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Vol.1 (1980/7[005])

<国内情報>
食品よりのコレラ菌の分離に関して


 過去に食品に起因するコレラは,1972年にオーストラリアで発生した40人の輸入例患者が,機内食が感染源であると報告されている。次いで1973年及び1975年のイタリア及びポルトガルで発生したコレラも,貝が原因食といわれた事例があり,更に1978年アメリカのルイジアナ州において発生したコレラは,カニが原因食であり,その時は周辺で採取された生のエビからもコレラ菌が検出されている。

 一方,わが国においては,1978年10月から11月にかけての池之端コレラで,食品のコレラ汚染が疑われた。そのため,当時厚生省に設置された,コレラ対策本部の決定に従って各検疫所では,コレラ汚染地域を国内にもつ国からの輸入生鮮魚介類について,抽出によるコレラ菌検査を実施してきた。その結果,1980年4月末までに,8,465検体を検査したが,いずれもコレラ菌は陰性であった。しかし,コレラ菌と兄弟であるNAGビブリオは,相当数(全国的に一律検査していないので検出率は省略する)の検体から分離されている。このことは,コレラ菌の存在するところには必ずNAGビブリオがあるという一般的定説からすると,コレラ汚染の可能性を全面的に否定することはできないため,コレラ菌検査を継続していたところ,1980年5月31日神戸港に入港した,デンマーク国籍のSIMBA号で輸入された,バンコック産の車エビ及び解凍水からコレラ菌が検出された。

 その概要は次のとおりである。

1.初回の検査成績

 表1に示すように,各荷口毎に1カートンを抽出して検体を採取し,その50gを検査に供した結果,BK−0092の車エビからコレラ菌(エルトールコレラ小川型)が検出された。

2.再検査

 このBK−0092から2kg検体を採取していたので,その残りから4検体(各50g)を採取して検査したところ,その中の1検体からコレラ菌(エルトールコレラ稲葉型)が検出された。同時に菌量測定の目的で,BK−0092の残りの検体を採取して,表2に示すような検査を実施したところ,エビ本体及び解凍水の両方からコレラ菌(エルトールコレラ稲葉型)が検出された。

3.追加検査成績

 上記の成績を考慮して,汚染範囲を調べるため,同一会社製品であるBK−0091及びBK−0092を表3に示すように,更に細分して検体を採取して検査した結果,BK−0091はすべて陰性であったが,BK−0092の記号21〜25から抽出した5カートン中の1カートンからコレラ菌(エルトールコレラ小川型)が検出された。

 以上の検査の結果,この輸入エビのコレラ汚染は,エルトールコレラ小川型及び稲葉型の両型菌によって汚染され,また,エビ本体及び冷却水ともに汚染されていた。未だ,詳細な疫学調査を行っていないので,この検査結果で汚染源の推定をすることはさしひかえるが,興味あるデータである。

 池之端コレラ以来,わが国で抽出によるコレラ菌検査を実施することとしたため,コレラ汚染地域を有する国の,輸出生鮮魚介類を取扱う会社は十分注意して製品化に努めているようであるが,今後は更に細心の注意が払われることと思われる。



厚生省公衆衛生局検疫所管理室 森国 勉


表1.検査成績
表2.菌量測定試験成績 エビの身
表.解凍水
表3.追加検査成績





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