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海外旅行者なかんずく東南アジアからの下痢症者から毒素原性大腸菌検出率の高いことは,今や衆知の事実である。また,いろいろな血清型のSalmonella,Shigella,Vibrioなども,単独ないし重複して検出される例の多いこともよく知られている。
一方,最近ヒトの下痢起因菌としてCampylobacter jejuniが注目され,我々もヒト散発下痢患者からしばしば本菌を検出している。しかし,海外旅行者からの分離例はなく,また,今年1月から始った病原微生物検出情報にもこの記録はない。たまたま本年4月,我々が検査した例の中で,赤痢菌を含めた各種病原菌と共に,Campylobacter jejuniも検出したのでご参考に供したい。
この例はネパールで登山を行った24才男子学生である。本年3月9日から4月9日にかけ,バンコク−カトマンズ−ポカラ−カトマンズ−バンコクを経由している。同行者から赤痢患者(S.sonnei)が発生したことから,その接触者として検査したものである。当人によれば旅行中および帰国後も何回かの下痢があったが,寝込む程ではなかったといわれる。検査は最初保健所で行われ,直接培養でS.flexneri 2aとSalmonella bareillyを,増菌培養でS.sonneiを,またST陽性毒素原性大腸菌O27を検出した。患者を収容した伝染病院ではCampylobacter jejuniも検出した。
人の下痢や食中毒の起因菌として腸炎ビブリオが判ってきたのは1958年以降で,その結果それらの原因物質判明率は飛躍的に上昇した。最近は毒素原性大腸菌,NAGビブリオ,更にCampylobacterなど新たな起因菌の解明もあって,検査はいよいよ複雑化してきている。しかし,反面検査技術者にとっては,この例のように5種もの病原菌が分離されると,かなり楽しい仕事になってきたと思うがどうだろう。
千葉県衛生研究所 七山 悠三
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