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厚生省は,麻しん,風しん,流行性耳下腺炎,プール熱,手足口病等の感染症の全国的な発生状況をいち早くキャッチし,各都道府県に週一回程度の「感染症情報」を提供する「感染症サーベイランスシステム」を,来年7月から発足させることを計画し,56年度予算概算要求に約8130万円を計上した。
現在,これらの感染症については37の都道府県(指定都市)が,医療機関の協力を得て発生状況を調べる「感染症サーベイランス」を実施しているが,各県の調査対象疾患や調査規模がマチマチのため,全国的な流行の広がりや程度等その実態はつかめていない。今後の厚生省の計画は,こうした地域的なサーベイランスの全国ネット化を図るものである。
また,現在国立予防衛生研究所と地方衛生研究所で進められている「微生物検査情報システム化に関する研究」の成果をふまえて,検査室情報を組織的・体系的に収集還元し,前述の情報との組み合せにより正確かつ迅速な感染症流行状況の実態把握を行うものである。以下感染症予防対策について,その必要性,実施主体,実施方法,効果,対象疾病等について概要を述べる。
1.必要性
戦後における医学の進歩,生活環境の改善,予防接種の推進,防疫体制の充実等により,急性伝染病は著しく減少してきたところであるが,反面,人口の都市集中,幼児の集団生活化,学校におけるプールの普及,交通機関の発達等生活環境の変化により従来みられなかった手足口病,プール病,伝染性紅斑等の感染症の集団発生や予防接種の一時中止による百日せきの流行などが生じてきた。また,感染症には重篤な後遺症を残す疾病もあり,未知の感染症の表在化,核家族化等による感染症への知識の不足と相俟って,いたずらに不安に陥ったり,早期かつ適切な対応が遅れることもあって,最近特にこれら感染症が社会的に問題視されてきた。
このため,感染症に対する地域的及び全国的な監視体制を設け,流行の実態を早期かつ適確に把握し,その情報を地域に還元することにより,医療機関における早期発見,早期治療に資するとともに,感染源の拡散防止,集団生活の停止,衛生教育の徹底など適切な予防措置を講ずる等感染症対策の強化を図る必要がある。
2.実施主体 国,都道府県,指定都市
3.実施方法
1県市当たり40か所の患者定点医療機関及び15か所の検査定点医療機関を設けて,患者の発生状況(病原体の検索を含む)を週報により都道府県を経由して収集し,これに微生物学的,疫学的な見地から解析を加えて,関係機関に感染症情報として還元する。
4.効果
早期に適確な情報を関係機関に還元することにより,感染症に罹患した患者は,医療機関において早目に適切な診断,治療が行われ,重篤な合併症が生ずる前に短期間に治癒することが可能となり,併せて早期の予防対策又は衛生教育の普及を図ることによって,感染症の流行を未然に防止することができる。
5.対象疾病
百日せき,溶連菌感染症,異型肺炎,麻疹,風疹,水痘,流行性耳下腺炎,無菌性髄膜炎,急性脳炎,乳児嘔吐下痢症,流行性嘔吐下痢症,手足口病,伝染性紅斑,突発性発疹,ヘルパンギーナ,咽頭結膜炎,流行性角結膜炎,急性出血性角結膜炎。
厚生省公衆衛生局保健情報課 藤原 紘一
感染症予防対策フローチャート
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