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岐阜県高山市において1979年秋に上気道炎,発熱発疹症,髄膜炎,脳炎の多彩な症状の小児からコクサッキーB5型ウイルス(CB5)が細胞培養系を使用し分離された。これらの成績はエンテロウイルスを主体としたウイルス感染症定点観測を高山日赤病院小児科(松浦章雄部長)の協力を得て調査,実施した一部である。高山市は岐阜県が富山県と隣接する北部に位置した飛騨地域の中心観光都市(人口6万余名)である。この高山市に1979年9月下旬から某養護福祉施設(小児70余名収容)内で,上気道疾患が流行(罹患率約30%)した。また,一般市内では3月頃から発生したムンプスが9月末にも尚散発していたが,一部の患者に髄膜炎がみられた。10月上旬からは新たに発熱発疹症が多発したが,発疹症状は麻疹様,風疹様,丘疹様,紅斑様と多様であった。これら発疹症は10月末終息した。なおこの期間に脳炎患者が単発している。以上のこれら患者の一部からウイルス検査材料を採取し,ウイルス分離を試みた結果,分離成績は表に示す如くいずれもCB5であった。CB5分離株はHeLa細胞(YLE培養液)および予研腸内ウイルス部分与のCMK1−S1細胞(Eagles'MEM培養液)を使用し,ともに分離されたが,HeLa細胞分離系ではCMK1−S1細胞分離系に比して材料接種初代継代の初期からCPEが確認され,2代継代後の分離株の感染力価はより高く示された。分離株は予研究腸内ウイルス部分与のエンテロウイルス型別免疫血清(Schmidt pool serum)の通常使用力価20単位で容易に中和同定された。また,被検患者の一部から採取されたペア血清の分離CB5株に対し測定した中和抗体価は表に示す如く,ムンプス髄膜炎と上気道炎の2名のみ抗体上昇が示され, 上気道炎患者にのみ有意上昇が認められた。CB5が分離された脳炎患者には急性期,回復期ともに抗体保有が認められなかった。文献ではCB5感染の臨床症状が無菌性髄膜炎,気道疾患,発疹症と多彩なことが報告1)2)され,日本では四国(1960)3),東北(1961)4)5)における流行事例が確認せられている。岐阜県高山市における今回の事例も,多彩な臨床症状から共通してCB5が分離され,CB5が同地域内に広く分布し,流行したことが推測された。
1)国立予防衛生研究所学友会編,ウイルス実験学各論,丸善株式会社,P.213,1967
2)中尾亨,ウイルス性発疹症の臨床,金原出版,P.87,1971
3)甲野礼作ほか,日本医事新報,40,1898,16,1960
4)中尾亨ほか,小臨,15,651,1962
5) 日沼瀬夫ほか,小臨,15,673,1962
岐阜県衛生研究所 川本尋義
表
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