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Vol.2 (1981/6[016])

<国内情報>
外来性ウイルス(国際伝染病)の侵入に備えて


近年,アフリカに発生したラッサ熱,マールブルグ病,エボラ出血熱等の病原ウイルスは,我国に常在せず,ヒトへの感染力が比較的強く,感染発症した場合きわめて致命率が高いので,特に危険な投O来性ウイルス狽ニして慎重な取扱いと厳重な監視が必要とされる。主なウイルスの種類を表1に掲げる。

これらのウイルスの多くは,しばしば激症の出血熱を惹き起こし,しかも有効な予防治療法がないために,欧米ではhighly dangerous special pathogens(高度に危険な特殊病原体)と呼ばれ,病原微生物の最高危険度を表わすクラス4に分類されている。万一国内にそういう患者が発生(飛来)した場合には,速かな完全隔離が必要なことは云うまでもないが,医師並びに病原体の検査研究に従事する者は防疫の最前線に立たされるわけである。大切なことは,これらの外来伝染病が今までに文明国において発生した例は,いずれも病院又は実験室内感染にもとずくという事実である。従ってこうした仕事に従事する者が,自らの体を衛ることが病原体の社会への拡散を防ぐ最も重要なバリアとなる。現在ではこれら外来性ウイルスはP4クラスの高度安全実験室以外では取扱ってはならないことになった。

しかし,多くのウイルス性出血熱は,初期症状からの鑑別診断は困難である。従って患者材料の取扱いは初めからP4実験質で行われるとは限らない。国際的な交流が頻ぱんとなり,輸送の迅速化が進んだこの時代に,病原微生物の検索に当る者は,不明熱性疾患の材料を取扱う時には,万が一にもそういう危険な病原体を含んでいるかもしれないという配慮と慎重さが要求される。少しでも不審のある時は,患者の発症までのプロトコール,とりわけ海外旅行の有無,海外旅行者との接触の有無などについて調査すること,エロゾール発生の危険のある操作は少なくともクラスUの安全キャビネット内で行うことなどが,不明熱性疾患の材料取扱い上の基本的な注意事項であろう。プロトコールから外来伝染病の可能性が疑われた場合には,直ちに予研に連絡をとって下さい。

(尚,特殊病原体のウイルス学的診断法については,本年末に出版される「ウイルス実験学各論」(改訂版,予研学友会編)の第17章を参照されたい)



予研 山崎修道


表−1.ウイルス性出血熱





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