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Vol.2 (1981/6[016])

<国内情報>
検疫所における下痢症患者等の検査結果について


近年,海外渡航者の急激な増加に伴い,海外からの各種腸管感染症の輸入例が,年々増加している。

これに対応するため,全国の検疫所(特に空港)も,検疫時において下痢している者及び下痢既往者の診断のため,必要に応じて細菌学的検査を実施している。

検疫所の業務は,コレラ菌検索を主目的としているため,その他の病原菌検索は全てに亘っていないが,昭和54年及び55年の実績は表1のとおりである。

昭和54年は,2,051人を検便して541人から病原菌を検出し,最も多く検出されたのは腸炎ビブリオ,次いでサルモネラ,NAGビブリオ,赤痢,コレラの順であり,昭和55年は,3,333人を検便して988人から病原菌を検出し,最も多く検出されたのはサルモネラ,次いで腸炎ビブリオ,赤痢,NAGビブリオ,コレラ及び腸チフスの順で,昭和54年より多少順位は変動している。

病原菌の検出率は表1のもののほか,毒素原性大腸菌及びその他の病原菌も含めれば,更に高くなるが,全国的に実施していないため,この表には掲載しなかった。

このように,多種の病原菌が検出されているが,更に同一個体から同時に2〜3種類の病原菌が検出されることもみられた。これは注目すべきことである。

従って,このような事例では,臨床症状にも変化を来たすことから,診断には細菌学的検査が絶対必要といえる。

推定感染国別にみると,表2のとおりで,ほとんどがアジア地域からの入国者で,最も多いのがフィリピンで特に腸炎ビブリオとサルモネラが傑出している。次いでタイは平均的に検出されており,インド,ネパール周辺地域では赤痢,サルモネラが多く,腸炎ビブリオが少ないのが特徴的である。この推定感染地は,必ずしも全てがはっきりとしたものではなく,あくまで推定であることを申し添える。

以上,検疫時に細菌学的検査を実施した結果成績を記述したが,この検査結果に基づいて,患者の早期発見に努めることが防疫上重要なことである。従って,今後とも検疫時の有症者のチェックには最大限の努力をはらうべきであると考える。

一方,検疫所では貨物の検疫で,生鮮魚介類のコレラ菌汚染検索のために細菌学的検査を実施しており,昭和55年6月13日神戸検疫所で,バンコックからの輸入冷凍エビからエルトール型コレラ菌稲葉型及び小川型を検出したのにはじまり,同年9月30日には門司検疫所で,韓国(浦項)からの輸入冷蔵鮮魚のサワラからエルトール型コレラ菌稲葉型を検出し,次いで翌56年1月9日には再び神戸検疫所で,バンコックからの輸入冷凍エビからエルトール型コレラ菌小川型を検出し,それぞれ所要の措置をとった。

また,検疫所では環境汚染状況調査の一環として行う港湾地域の海水等の細菌学的検査において,昭和55年5月31日那覇検疫所は沖縄の安謝川底泥からエルトール型コレラ菌稲葉型を検出し,次いで同年9月11日には名古屋検疫所は名古屋市内の荒子川河口周辺の海水からエルトール型コレラ菌稲葉型を検出している。

今後とも国内防疫との連繁を更に密にして,汚染源の早期発見に努めることが重要である。



検疫所管理室 森国 勉


表1.腸管系病原菌検出状況
表2.病原菌の推定感染国(昭和55年)





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