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Vol.2 (1981/7[017])

<国内情報>
大阪府下におけるPPNGの調査


海外渡航者が持ち帰る伝染病が話題になりはじめて久しいが,主として腸管系感染症に目が向けられ,淋病はあまり注目されていない。やっと昨年あたりから売春ツアーがマスコミでとりあげられているが,アメリカでは淋病が他の感染症に比べ群を抜いて多く,発展途上国から輸入されるペニシリナーゼ産生淋菌(PPNG)による地域的小流行がMMWRに時々報告されている。

日本でも既に小原らによりPPNGが報告されているので,我々も数年前から府立万代診療所と協力して府下におけるPPNGを追跡調査してきた。その結果,昨年12月に2例,本年4月に2例,6月に1例のPPNGによる患者を確認した。これら5例の感染地は,第1例は近畿のある温泉地,第2例は大阪府下(夫の第1例より感染),第3例は大阪府下(OLより),第4例はタイのバンコク,第5例は大阪府下(ゆきずりの婦人より)であった。これらはおそらく氷山の一角であろう。

こうしてみると,PPNGをこれまで輸入感染症として考えてきたが,もはや国内にかなり広がっていると思われるので,それなりの対策が必要であろう。上記の5例にはいずれもペニシリンによる初回治療が無効で,スペクチノマイシン(SPCと略)またはリボスタマイシンが有効であった。SPCはアメリカでもPPNG感染に使われているが,最近のMMWR(Vol. 30,No. 19)によるとSPC耐性PPNGが1例(フィリッピンで感染)検出されているので,今後,治療上留意しなければならないだろう。

大阪で分離した淋菌(54株)の薬剤感受性(MIC)は図示したとおりであるが,上記のPPNG5株はCER耐性であったが,CFXおよびTCに感受性であった。また,β−lactamaseを不活化するクラブラン酸をAMPCに加えた合剤がβ−lactamase産生菌に有効であることが臨床的にも確認されているが,PPNG5株についてディスク法で検討したところ有効であった。今後,PPNG感染の治療に期待のもてる薬剤である。



大阪府立公衆衛生研究所 原田七寛








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