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Vol.2 (1981/7[017])

<国内情報>
エンテロウイルスCF抗体価測定の診断的意義


エンテロウイルスに感染した患者は感染ウイルス以外の多数の型に血清CF抗体応答を示すことが古くから知られている1)2)。しかし,そのような日本語の報告はなく,近年我国において臨床検査としてCF抗体価測定が一般化されるにつれて,エンテロウィルスCF抗体価測定が無批判に行われているのが実情である。

我々はこの問題を再検討するために,ウイルスが分離され,かつその型が同定されている患者のペア血清中の種々のエンテロウイルスCF抗体価を調べることを計画し,そのような血清の分与をお願いしたところ(本月報昨年5月号),49人の患者のペア血清(98検体)の提供をうけた。ここでは,それらの血清についての検査の結果を報告する。

49人中11人については血清の抗補体作用のため結果判定不能であった。残り38人中16人が13種類のいずれかのウイルス抗原に対しCF抗体価が2管またはそれ以上の上昇を示した。このうち13人の血清についての結果を表に示す。型特異的応答を示したのは患者1〜2のみであって,残りはすべて異型ウイルスに対して応答した。したがって,CF抗体応答から感染ウイルスの型を推定するのには無理があることが再確認された。

一方,エンテロウイルスのビリオンで免疫したモルモットの抗血清はCFで型特異的であって3),これはCFやIAHAで分離ウイルスの同定に使用可能であると我々は考えている。面白いことに,ビリオンをSDS存在下で加熱し,壊してから免疫すると,今度はその抗血清はCFで異型ウイルスに反応するようになる4)。この理由を我々は次のように考えている:ウイルス粒子表面には型特異抗原と型間共通抗原があるが,前者は免疫原性があるが,後者にはそれがない。しかし,粒子を壊すと後者も免疫原性をもつようになる。

エンテロウイルスが人体内で増殖する時には,感染細胞から免疫原性のある共通抗原性をもつサブユニットが放出され,何回もエンテロウイルスの感染をうけると漸次共通抗原に対する抗体の産生が強まり,CFで異型抗体応答を示すようになるのであろう。

以上をまとめると,@エンテロウイルスに多数回感染をうけた患者(保育園児,幼稚園児,それ以上の年長者)では,CF抗体価測定の結果から感染ウイルスの型を推定することはできない,A乳幼児のエンテロウイルス初感染では,CF抗体応答は型特異的であろう,Bビリオンで免疫したモルモットの抗血清はCFで型特異的であって,分離ウイルスの同定に使用可能であろう。

最後に貴重な血清を御提供いただいた,伊藤義広(島根衛研),森正俊(愛媛衛研),鈴木利寿(神奈川衛研),石井慶蔵(北大・公衆衛生),浅村信二(慶大・小児科)の諸先生方に深謝します。

文 献

1) Kraft and Melnick:J. Immunol. 68,297,1952

2) Schmidt et al.:Proc. Soc. Exp. Biol. Med. 109,364,1962

3) Hasegawa and Inouye:J. Gen. Virol. 42,119,1979

4) 長谷川斐子ら:第28回日本ウイルス学会総会発表,久留米,1980



予研 ウイルス中央検査部 井上 栄 長谷川斐子








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