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Vol.2 (1981/10[020])

<国内情報>
グループFビブリオによる下痢症について


8月14日,大分県中津市において食中毒の集団発生があった。原因食は既になく,患者3名,調理従事者(健康者)2名の大便を検査したところ,そのすべてからSalmonella anatumが検出された。

患者の1人が入院していた病院に調査に行ったところ,たまたまその病院に自家中毒患者が入院しており,ついでにということで私共の検査室に検体(下痢便)が持ち込まれた。

検査の結果,病原ブドウ球菌,病原腸内細菌等既知の食中毒起因菌はすべて陰性であったが,TCBSに黄色のコロニーがしかも純培養のごとく発育していた。

すわ一大事とばかり,はやる心を抑えながら,コレラ血清に当ててみたところ,幸い凝集はみられなかった。

NAGを疑い検査を進めて行くうちに,好塩性+,リジン−,オルニチン−という性状が確認されたので,「Fグループのビブリオ」と同定した。このほかの性状については現在もなお検討中である。

興味が持たれたので,病院担当の医師および患者(既に退院済み)に照会したところ次のことがわかった。

患者は大阪市在住の33才になる女性で,盆に里帰りし(中津市近郊の国東町),そこの家族7名と共に8名で夕食を食べたところ,約14時間後7名が激しい下痢に見舞われ,さきの患者1名が入院した。

食事の内容はタコの刺身,貝の味噌汁,野菜いため等が主なものであった。

もしタコが原因食とするならば,国東町海域は既にFグループビブリオで汚染されているのであろうか。

文献を捜してみたが,単発あるいは集団食中毒の場合,他の菌との混合感染の形でしかFグループのビブリオは検出されておらず,今回の事件は珍しい例と思われたので報告することにした。

参考までに臨床症状を示すと,下痢・腹痛が主な症状でそのほかテネスムスがあり,熱は軽度,予後は良好とのことであった。

〔註〕国東町沖合に姫島というところがあってタコの棲息地として知られており,漁獲量も多い。



大分県公害衛生センター 朝来義雄





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