|
本年は全国的にAHCの多発がみられているが,千葉県では9月はじめにサーベイランス定点である成田赤十字病院眼科からAHCの流行が報告された。同院の患者はその後約200名にも及び,病院職員の二次感染も多くみられたという。また,成田ニュータウン内のK眼科医院にも8月末よりAHCと思われる患者が増え,成田空港関連施設の人々も多いとのことであった。その後,流行が拡大するに従い,新聞,放送等でもセンセーショナルにとり上げられたが,9月中旬をピークに流行はさほど拡がらずに9月末日頃にはほぼ終息した。
今回の流行に際し,県関係機関はただちに疫学調査およびウイルス血清学的調査を行ったので,その結果を簡単に述べる。
患者発生地域は成田ニュータウンを中心に佐倉,富里,栄,本埜などの印旛郡市町が主で,患者の約5割が20才以上であった。患者の経時的発生状況は佐倉保健所の調査では図に示した通りで,第37週から第39週までの約3週間にわたり,総計307名であった。サーベイランス情報による現在までの患者数はこれより少なく188名だが,時期は一致している。
検査については,現在まで22名の患者のウイルス分離を試み,2例からウイルスを分離した。使用細胞はGMK,HeLa,HEL,Veroを併用したが,分離率はHELが最もよく,CPEは初代からみられ,次いでGMK,HeLaの順のようである。VeroではCPEは認められなかった。眼瞼拭い液材料22検体中5例がCPEを示したが,併せて採取した咽頭拭い液5検体は全て陰性であった。この5例中1例はアデノ8型と同定され,患者は39才の女性で,広範な結膜出血と浮腫を伴う定型的なAHC症例である。他の1例はアデノ3型で,6才の女児で症状は定型的ではなかったようである。残りの3例は未同定であるが,アデノ様CPEを示している。エンテロウイルス70型は全く分離されていない。抗体検査では,適当な材料を得ることができなかったが,EV70の抗体上昇は確認できなかった。ウイルス分離は行わなかったが,ペア血清を得られた32才の女性患者ではEV70抗体価は急性期64倍,回復期32倍であった。
千葉県では,サーベイランス情報によると,同時期のEKCおよびPCFの発生は極めて僅かしか報告されていない。しかし,全国のAHC流行地では同時にEKCとPCFも多くみられているので,これらがAHCの報告に混入していることも十分考えられる。しかし,当地の専門医は多くの症例を自信をもってAHCと診断している。1971年あるいは1975年の流行の経験からは,今回の各地の流行でEV70が分離されないことは理解できない。ウイルス側の緒性状が変化したのであろうか。臨床診断にも問題があるのだろうか。いずれにせよ今後の病因論的な検討が必要である。
千葉県衛生研究所 曽田研二
図.成田市周辺に発生したAHC患者発生状況(佐倉保健所調べ)
|