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Vol.3 (1982/2[024])

<外国情報>
1981年サンアントニオ(テキサス)における腸チフス


1981年8月16日から10月5日の期間,72の腸チフス症例がサンアントニオ市西地区から報告された。過去30年間この市における年間腸チフス発生数は0〜6である。

患者の年令は1〜60才に及ぶが,平均して19才であり,女子が42名,男子が30名である。71名がスペイン系であって,うち58名は主としてスペイン系居住区であるサンアントニオ市の西区に住んでいる。最初の調査では共通の暴露源がみつかっていない。

すべての患者は市の供給水道の水のみを使用しており,市の報告によれば,大部分の患者の住んでいる地区において水道管の破裂等はおこっていない。患者発生の日付けをみるに,6週間にわたって分散しており,特定のピークはない。患者に共通の食物があるか否かをみるために,最初の25名の患者にアンケート票が配布された。その結果,4つの汚染源が可能性としてあがってきた。露天商からのsnowcones,2軒の即席料理店の食品,そして特定の製造所the tortina molinoからの食品である。そこでcase-control調査が実施され,各患者に対し年令,性,そして居住区の近辺ということで相当する2名の対照をえらんだ。ただひとつ,統計的に有意(P<0.00001>な要因としてthe tortina molinoの食品がうかび上がった。ここから患者がもっとも普遍的に購入した2つの食品はcorn tortillas(焼きもち)とbarbacoa(蒸した牛の頭よりなるメキシコ風バーベキュー)であった。この製造所は9月27日に閉店され,地区保健部の規制に合致した時点で10月8日に再開された。従業員31名のすべてから便が採取されて,S. typhiの検出がなされ,血清抗体価も同時に測定された。

1名の便からS. typhiが分離され,この人を含む3名からVi抗原に対する抗体価上昇が見出された。いずれも腸チフスの予防接種はうけていない。食品そのものからはS. typhiは分離されなかった。

Barbacoaは一晩中蒸気で蒸した牛の頭で,塩を加えるがスパイスは加えない。手袋をはめない従業員の手で骨をのぞき,71.1℃〜79.4℃のグリルの上の容器の上におかれて1〜2ポンドの単位で売られる。corn tortillas(焼もち)はとうもろこしの穀粒に,角皮をのぞくため石灰液をまぜてつくる。この混合物を煮てから洗浄し,つぶしてからこねて餅の形にする。これはほぼ2分間,熱したローラーの上で焼かれるが,そのあと従業員の手で塩で味つけされる。S. typhi陽性の従業員は,以上2種の食品のいろいろな製造段階で関与していた。この従業員が新鮮患者か慢性の保菌者であるかは長期の追跡調査をしなければわからない。分離株はクロランヘニコールとアンピシリン感受性であり,ファージ型は患者もその従業員も同じくdegraded Vi approaching Bであった。

編集部註:1980年,約500の腸チフスの症例がCDCに報告された。過去5ヶ年における平均年間発生数は405である。1977〜1979年の間にCDCに詳しく報告された症例の63%は外国でかかったものであり,のこり37%は国内感染である。国内感染例のうち25%だけが集団発生の形をとっている。米国において,共通食品による最後の大集団発生例が1973年にフロリダのDade郡でおこっているが,1600名が暴露され,300名以上が発症した。

(MMWR,Vol.30,No.43,Nov.6,1981)






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