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古来,日本における恙虫病は東北三県(新潟・秋田・山形)に夏発生する地方病(風土病)といわれ,かつ本疾患は死亡率も高く,人々から恐れられていた。最近,東北三県以外の全国各地域に俗に非アカツツガムシ媒介性――新型と称される恙虫病が発生しており,本県においても昭和55年秋から昭和57年春にかけて307名の恙虫病患者の届出があった。
1.恙虫病の発生状況並びに概要
患者発生は離島を除く県内ほとんど全地域でみられ,その年次月別患者の届出は表1に示すごとく,発生がみられないのは7月のみであり,11月と12月に最も高い傾向を示している。なお,発生の概要については,昭和55年,初発患者の届出がなされた鹿屋市の開業医師寺崎健氏によれば,大隈地域では昔から秋になると熱病が発生し,「大隈熱」あるいは「秋やみ」と呼称されていたとのことであり,また,鹿児島大学医学部第二内科の調査によると,薩摩半島の鰻池地区に7日熱,北薩地域の出水地区には十日熱と呼称されている病気の発生がみられ,これらは時期的に恙虫病の発生期と一致しているので,県内に発生をみたこの種の熱性疾患も恙虫病「リケッチア性疾患」ではないかとの疑念も出ている。
2.考察
このような疾患の多発に伴い県も早急に対策を講じている。すなわち患者の届出励行・早期診断に基づき,適切な抗生物質による治療法の確立および報道機関を利用して,一般住民に対し予防方法の指導等について啓蒙を行い,併せて多発地域のノネズミを捕獲し,恙虫の種類別分布を調べた。その結果,恙虫病の媒介種とされているタテ・フトゲの二種の恙虫が採集固体の70%を占めていることが判明した。今後は患者からの血清学的(免疫蛍光法=IF)検査実施と併せて,ノネズミ並びに恙虫(タテ・フトゲ)からのリケッチアの検索,および両年にかけて恙虫病の多発地区における一般住民について,不顕性感染がどの程度存在するのか,血清学的(IF)検査による抗体保有調査を今年度から昭和60年にかけて実施していく予定である。
鹿児島県公害衛生研究所 山本 進
表1.患者の発生状況
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