HOME 目次 記事一覧 索引 操作方法 上へ 前へ 次へ

Vol.3 (1982/6[028])

<国内情報>
AH3型ウイルスによるインフルエンザ流行およびウイルス検出方法について


 今冬の長野県のインフルエンザ流行は1月中旬に始まったが,3月中旬までに検出されたウイルスはすべてB型であった。中旬以降は学年末休みに入ったこともあって,患者発生はほとんどなくなったが,4月新学期が始まるとともに,再びインフルエンザ様患者が発生し始めた。そして,これらの患者から採取された流行予測事業の検体から,3月まではまったく検出されなかったAH3型ウイルスが多数検出された。

 流行予測事業検体からのウイルス検出状況を図1に示した。3月末までは75検体から43株のB型ウイルスが検出されている。集団発生はおもに1月下旬から2月末にかけて発生し,この時期が本県におけるインフルエンザ流行の最盛期であったと考えられる。これらの集団発生からはB型ウイルスが検出されている。4月に入って26検体が採取されたが,このうち18検体からAH3型ウイルスが検出された。このAH3型ウイルスによるインフルエンザの主な症状は発熱,頭痛,腰痛などであったが,3月までのB型にくらべ発熱の程度も軽く,経過も短いようである。現在インフルエンザ様患者はかなり認められているが,休園,休校,学級閉鎖などの措置を必要とするような事態には至っていない。

 本県における昨年のインフルエンザ流行の主流をなしていたのはAH1N1型ウイルスであったが,流行末期に出現したB型ウイルスが今季の流行ウイルスとなっていることから,この4月,突然出現したAH3型ウイルスの今後の動向が注目される。

 ウイルス検出の方法

 検体は綿棒により採取した咽頭ぬぐい液を3mlの1%牛血清アルブミン添加のEagle'sMEMに浸出させたものを使用した。

 ウイルスの検出はすべて培養細胞(MDCK細胞,ESK細胞)を用いて行った。それぞれの細胞について通常使われている単層培養細胞を用いる方法の他に,私達が早期実験室診断を目的に試みてきた細胞浮遊液へ直接検体を接種する方法1)によりウイルス検出を行った。この方法は2×106cells/mlのトリプシン−EDTAで分散した細胞あるいは浮遊培養細胞0.1mlに検体0.2mlを接種し,34℃で1時間吸着後0.7mlの根路銘の処方2)による細胞維持液を分注し,34℃で静置培養するもので,この方法によれば,検体搬入当日ただちに接種できるため4〜5日後にはウイルスを同定することができる。私達はこの方法により集団発生をはじめ,流行予測事業などの検体について特別の事情がないかぎり,1週間以内に成績を出している。

 表1に1月から4月までの流行予測事業検体からの方法別,細胞別のウイルス検出成績を示した。

 インフルエンザは突発的に大流行を起こし,しかも経過が短いため,特に早い病原決定を要求される場合が多いが,そのような際,この方法は有効な手段になると思う。



文献

1)中村和幸ほか:感染症誌,54,306〜312,(1980)

2)根路銘国昭:臨床病理,特集第35号,112〜115,(1978)



長野県衛生公害研究所 中村 和幸 西沢 修一


図1.インフルエンザ流行予測事業検体の採取日別ウイルス検出状況
表1.初代培養における方法別,細胞別の検出成績





前へ 次へ
copyright
IASR