HOME 目次 記事一覧 索引 操作方法 上へ 前へ 次へ

Vol.3 (1982/8[030])

<国内情報>
1982年のインフルエンザウイルス分離成績――分離方法の比較――


 保育園児に対するインフルエンザワクチンの予防効果を判定するため,罹患調査の一環として対象園児から積極的なウイルス分離を試みた。われわれはこれまでインフルエンザウイルスの分離に,9日ないし10日令の孵化鶏卵を用いてきたが,今シーズンの流行にMDCK細胞および,LLCMK2細胞を同時に用い,ウイルス分離率の増加を期待した。また,ミクソウイルス以外への分離スペクトルの拡大も併せて狙った。

 対象及び方法

 1981年12月下旬から1982年3月中旬にかけて川崎市内の4ヶ所の保育園の有症状者から採取した146検体を対象とした。咽頭ぬぐい液78検体は主として保母が,鼻腔洗滌液68検体は医師が採取した。検体はウイルス分離に入るまでは−80℃に凍結保存し,その後,9日孵化鶏卵羊膜腔,MDCK細胞,LLCMK2細胞にそれぞれ接種した。MMCK細胞は10%ウシ新生仔血清加MEM,LLCMK2細胞は5%ウシ新生仔血清加MEMを用いて培養し,単層形成をまってマイナスPBSで洗滌後検体を0.1mlづつ接種した。室温で30分吸着後ウイルス増殖培地に置きかえた。増殖培地にはイーグルMEM強化培地(5μg/mlトリプシンを含む)を用い,材料を接種した細胞は37℃のCO2インキュベーターで5〜7日培養し,上清をハーベストした。インフルエンザウイルス分離の指標としては,従来のニワトリ血球凝集反応に加えて,更にNeuraminidase(NA)活性も測定した*。その際,対照の未感染培養上清の吸光度が,0.05以下であることから,0.1以上のO.D.を一応陽性の目安とした。

結果

 146検体のうち血球凝集(HA)価が4倍以上のものは,MDCK細胞で30検体(20.6%),LLCMK2細胞を用いた場合は23検体(15.8%),孵化鶏卵を用いた場合は5検体(3.4%)であった。孵化鶏卵を用いてHA価が4倍以上であった5検体のうち4検体は,MDCK,LLCMK2両細胞でもHA価は4倍以上であったが,他の1検体はMDCK細胞においてのみ4倍以上であった。23検体はすべてMDCK細胞を用いた場合も4倍以上の血球凝集活性を示した。

 NA活性がO.D.0.1以上の陽性検体は,MDCK細胞を用いた場合は40検体(27.4%),LLCMK2細胞では36検体(24.7%)であった。LLCMK2細胞を用いて陽性となった36検体のうち2検体はMDCK細胞では陰性であった。

 また,HA価が4倍以上の30検体は1検体を除いてNA活性がすべて陽性であった。

 NA活性が陽性でHA活性が陰性の10検体のうち,8検体は2代継代した。その結果,1検体からはMDCK細胞で血球凝集因子を得た。従って,MDCK細胞に接種して得られた血球凝集因子は31株となった。

 MDCK細胞を用いて4倍以上の血球凝集活性を示した31株を,その採取方法によって比較してみると,鼻腔洗滌液68検体から9株(13.2%),咽頭ぬぐい液78検体からは22株(28.2%)となった。

 31株のうち27株について同定を試みた所,26株がB株で,A(H3N2)型は1株であった。しかし,H1N1型は分離されなかった。なお,孵化鶏卵を用いて分離できた5株のうち4株はB型,1株はA(H3N2)型であった。

 考察

 以上のことは,特に最近のB型インフルエンザウイルスの分離に関しては,孵化鶏卵よりもMDCK細胞の方が圧倒的に有利であることを示すものであろう。LLCMK2細胞系もMDCK細胞系には多少劣るが,孵化鶏卵を用いる方法よりはすぐれていることがわかった。ウイルス分離用材料の採取に経験のない保母が採取した検体からも相当数のウイルスが分離されたことを考えると,医師による直接的な材料採取は,分離率を更に向上させるものと思われる。ちなみに,同じシーズン中に川崎市立川崎病院小児科外来患児からも孵化鶏卵接種法によりインフルエンザウイルス分離を試みたが,362検体から30株が分離され,分離率は8.3%であった。

 更に今回の研究で,NA活性を指標にすると分離率の増加がもっと期待できることが示唆された。従って,まずNA活性を指標としてスクリーニングを行い,HA価が陰性であってもNA活性が陽性あるいは境界線上の検体はめくら継代をすべきであろう。落ちこぼれていくウイルスを再び拾い集めることもできよう。また,LLCMK2細胞とNA活性を指標にすれば,パラインフルエンザウイルスの分離もまた可能である。これに細胞変性効果の指標を加えればその他のウイルス分離の可能性も拓かれて,上で示したウイルス分離システムの価値は高いものとなろう。

 結論

1.保育園児から採取した146検体を対象としてインフルエンザウイルスの分離を試みた。分離されたインフルエンザウイルスは,B型が26株,A(H3N2)型が1株であった。

2.MDCKあるいはLLCMK2細胞系を用いた方が,孵化鶏卵接種法よりも分離率がすぐれていた。

3.MDCK,LLCMK2両細胞系を用い,NA活性を指標とすることにより,インフルエンザウイルスの分離率の増加と共にパラインフルエンザウイルスの分離も期待できる。

4.以上の成績は,上記システムがウイルス分離率の向上に功を奏することを示すばかりでなく,ウイルス分離に要する費用と労力の軽減をも果たすものといえよう。

*根路銘国昭:モダンメディア,20;153-164,1974



川崎市立川崎病院小児科 武内 可尚,渡辺 淳,冨井 郁子
国立予防衛生研究所 ウイルスリケッチア部ウイルス3室


 分離系によるウイルス分離数の比較





前へ 次へ
copyright
IASR