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Vol.3 (1982/8[030])

<国内情報>
衛生微生物技術協議会:7月8日(水)於仙台「厚生省サーベイランス事業」における衛研担当者発言要旨


北海道・東北ブロック

現在の地研の機能は@調査研究,A行政及び一般依頼検査,Bその他(疫学情報解析や研修など)に大別されるが,多くの地研では,できる限り検査の軽減化をはかり,調査研究を進展させたいという要望が強いのではなかろうか。しかし,現実には,表1に示すごとき検査部門の比重が漸次大きくなりつつあり(例えば,秋田では10年前の1.7倍増加し,全体の63%を占有),しかも,外的要因としての財政的,人員的抑制の厳しさからミニ予算と一定スタッフ数で対応していかなければならなず,従って,そのしわ寄せが調査研究に大きな影を落しつつあるといって過言ではあるまい。

このような観点から,今回の協議会では,検査の軽減化,統一化あるいは検査内容のレベルアップなどのための方法として,@ブロック地研間の「検査相互分担システム(表2)」とA「抗原・抗血清の地方サプライセンターシステム(図1)」を,また一方,感染症サーベイランス検査情報をより有効に活用するため,B「病原微生物検出情報解析委員会(図2)」を提案した。

第1の検査分担システムは,すべての検査を分担の対象とするのではなく,比較的特殊性の高いもの(例えば,Cox.A群のserotyping,下痢症ウイルスや肝炎ウイルスの検査など)に限定して行うのであるが,これは各地研の特異性,即ち,研究テーマによって各地研の得意な検査の種類や質が半ば決まるので,この特殊性を分担システムに活用しようという考え方である。

第2の地方サプライセンターは,昨年の協議会でも一部提案(図1の点線内)したが,@抗原や抗血清の標準化(検査の統一性と信頼性),A迅速化または省時化などを目的として,ブロック内に1ヵ所または数ヶ所(検査分担制と関連)設置しようとするものである。しかし,その前提は中央サプライセンターなので,まずこの実現化を早急にはかっていただきたい.

第3の検査情報解析委員会は,地研や病院の努力でなされている貴重な検査情報の有効性をより高めるため,@まずこれまでの検査情報に基づいて各微生物の疫学的,病原学的性状を解析し,一方これをベースにして,また,患者情報とドッキングしながら,Aその時々の微生物の流行の可能性を検討したならいかがであろうか,ということである。構成は予研と参加意志のある地研とし,また,その開催回数はタイムリーな情報を出すためには2ヵ月に1回,できなければ年1回(流行予測検討会−未設−などと合同)とするが,旅費は場合によっては地研負担としなければならないだろう。

紙面の都合上,詳細に説明しなかったが,以上の3点を今回の協議会で提案した。いずれも一見不可能のようだが,実施する意志力と綿密な計画を前提にして,今後議論を積み重ねていけば可能性はでてくるものと考えている。



秋田県衛生科学研究所 森田盛大


関東・甲・信・静ブロック

1.サーベイランスに関するレファレンス・システムの現状について

全国規模でのサーベイランス情報との関連において,レファレンス体制の確立,とくに次のような諸点が緊急の課題である。@分離同定用の試薬,とくに遅れているウイルス方面における同定用抗血清,細胞等の円滑な供給。A同定困難な,または重要な分離病原体のレファレンス・センターにおける確認。B検査手法の標準化と講習会等を含めた精度管理体制。C予研,地研,試薬メーカーの業務分担責任を明確にすること。

2.患者発生情報および検査情報の還元と利用について

情報還元の現状は全国規模では,厚生省サーベイランス週報,病原微生物検出情報(月報,年報)によるほか,予防医学ジャーナル,医学のあゆみ,日本医事新報等によっても提供されている。さらにこれらの情報は各県で独自のスタイルにより,定期的に流されているが,その他,東北防疫情報,中・四国・兵庫感染症情報のように広域的に提供されているものもある。このように情報の還元は比較的良く行われているが,その利用状況は充分把握し難く,有効な利用の方法,分野,評価などは今後の課題として残されている。関東甲信静ブロックにおける情報の還元と利用の現状は次のようなものであった(対象は12都県市衛研)。@患者発生情報:第1次送付先は定点医院12(都県市−以下略),県医師会10,郡市医師会9,小児科医会4,市町村衛生部局7,県教育委員会8,市町村教育委員会5,定点小学校3,保健所6,国立病院3,公立病院2,その他で,医師会関係には比較的よく還元されている。これらの他,二次的な学校,保健所等への還元を加えると更に対象は増加する。情報の雑誌等への掲載は7ヶ所で実施されており,医師会報(主として月刊)が最も多く(5),その他新聞,報告書等がある。情報の利用については,医療機関においては診断(10)が主であるが,研究会等の資料としても利用されている。行政部局と教育関係では,利用の用途は衛生教育(6),防疫資料(4),流行予測(3),他に12項目にわたっているが,医療機関ほど直接的には活用されていないようである。A検査情報:送付先は多い順に県医師会5,定点医院5,県行政部局5,保健所4,市町村衛生部局4,他郡市医師会,小児科医会,公的病院,保健センター等に広くわたっているが,患者情報ほどは医療機関に流されていない。また,研究班による月報以外に自治体独自の検査情報を出している所は8ヶ所で,うち5ヶ所が主として月報として出されていた。利用用途は医療機関では全て診断である。行政部局では流行の認知(3),防疫対策(3),衛生教育(3)等にすぎず,学校関係ではほとんど利用の方法を知らないといってよい。

以上から今後の主な問題点を挙げる。

1)患者発生情報は医療機関を中心に,行政,学校関係等広く利用されているが,さらに公的病院,保健所,保健センター等に普及させることが望まれる。

2)情報の一次還元には経費的な限界があるので,さらに二次還元を強化して有効利用をはかるべきである。

3)医院では主として診断に利用されているが,特に流行の早期把握は重要であるので,診断の質の向上のためにも,患者情報と検査情報のドッキングが必要である。

4)現行の患者対象疾病の種類では不足である。

5)現行の厚生省サーベイランス週報は理解しにくいので,流行予測,インフルエンザ情報,食中毒情報,その他の流行情報をも加え,解説を加えた平易な情報との2本立ての情報を検討する。

6)検査情報については,行政,学校関係での生データの利用は無理であるが,病院検査室,保健所等利用範囲を拡げるべきである。

7)検査情報は,単にサーベイランス対象疾病のみではなく,さらに広範に病原体検索を行うべきである。

8)病原体分離のみでなく,血清学的,または耐性検査情報など関連のある検査情報も包含すべきである。

9)現在の定められた検査数では不十分であるが,総数を増加できない場合は特定の定点医院で集中的に行う方がよい。

10)質の高い検査情報を得るためにはレファレンス・システムの早急な整備が強く望まれる。



千葉県衛生研究所 曽田研二


東海・北陸ブロック

東海・北陸支部の各衛研はこの感染症サーベイランス事業にそれぞれ取り組んでおり,患者定点については厚生省の規準を上まわっているもの,規準通りのもの,下まわっているものと三通りにわかれ,検査定点数にしても同様である。検査数についてもまちまちであるが,いずれもこの事業の意義を評価して検査,報告を行っている。

以上が当支部の現状報告であるが,当支部としてはこの事業の将来について次の提案を行いたい。それは,地方の衛研に感染症サーベイランス事業の組織として地方感染症情報センターを設置してはいかがかという事である。その理由の1として感染症サーベイランス事業についての要領(厚生省地域情報課長より地方衛生部局長宛通知)の中に衛研が情報の収集に当たるべきことが明記されている。第2に地研の使命として厚生省事務次官通達の中に疫学情報を行うための組織が認められていること。第3に中央の感染症情報センターとして予研の中に組織を作る気運が存在していることである。

以上のような理由であるが,この組織ができるなら感染症サーベイランス事業がよりよく円滑に機能するであろう。



名古屋市衛生研究所 土平一義


近畿ブロック

感染症サーベイランスの検査業務に関しては,大阪府では体制固めが終わっていない。従って種々の問題点があろうが,この点で先行の近畿地区各府県市の実情を調査した。その全ての地域で,すみやかに業務が進行しているものではないようである。ただし神戸市,大阪市では以前から診療所,病院定点よりの検査サーベイの業務が行われていた。その他の府県では実行可能な範囲で努力されていることがわかった。各府県の事情もあり総括的とはいえなくとも,最も集約された問題点は何かと考えた。府県市医師会との関係,検体採取,保存法,検査項目,報告ルート,必要経費等種々の点が考えられたが,結局私見ではあるが,良い検体材料を入手することにつきると考えた。もちろん内部的には個々の研究所における技術のレベルアップの問題も大切である。我々の場合の例として,インフルエンザの学級閉鎖に関連していかに感染後まもなくの,症状のはっきりした患者検体を入手するかの事例と,さらにカンピロバクターに関して,病院検査室で菌陽性であった検体をキャリー・ブレア培地に保存していただき,後日ついでの日に検体を持ちかえり公衛研で検査した事例では,初めの陽性検体中の81%が陰性化していたが,一方サルモネラでは100%生残していた例をあげて,検査材料の質が検査の成績に大きく影響することを示した。検体の採取に関しては,定点における臨床医家が調査に興味を示されることが第一であり,このためには範囲をしぼった研究会組織をいくつか構成する必要もあろうかと考える。

さらに機関を異にした検査成績の比較の例は,風疹の大流行に際して問題となった事例であるが,パラインフルエンザの抗体調査の例をあげて,検査の精度管理に留意する必要があることを示した。この対策としては,この様な機会に研究所員が相互に検討し合える場をもつことである。単に話題を話し合うだけではなく,積極的に限られたテーマについて共同作業的検討を行えるような研究会組織を各ブロックごとにもつ必要があると考えた。



大阪府立公衆衛生研究所 北浦敏行


中国・四国ブロック

1.サーベイランス事業について

(1)予算関係:この事業について従来から県単独で実施していた県では,厚生省計画により予算の減額を余儀なくされ,今まで通りの運営が困難となり悪影響が出て来たこと,また,一般的には検査対象疾病中一部を除いてその原因となる微生物は一定でなく,同一疾病でも流行の経過または発生地域により相違する場合がある。そのため,現在の検査費では疾病の原因追求について正確な解明は不可能である。検査費算出のための計算法を検討し予算の増額が望まれる。

(2)検査関係:地方衛生研究所の業務は地域特性があり,検査対象疾病に即対応できるとは限らない。新しい検査法,問題の多い疾病等について検査法の技術講習会の実施を切望する。

ウイルスの同定検査に必要な各種抗血清,なかでも Schmidt pool 血清等市販されていない同定用血清の供給について,早急かつ円滑な配布(有償可)を計られたい。

2.病原微生物検出情報について

(1)月報について:情報,調査,集計,外国情報等衛生研究所では極めて有益に活用されているが,行政当局,医療機関等においては集計に関して理解が得られていない。この情報に解説的なコメントがあれば一層効果的利用が期待できる。

月報を許される範囲で医学関係誌に掲載し,広い利用を計られたい。

3.感染症サーベイランスと微生物検出情報との関係

行政レベルでのサーベイランス事業と研究事業としての微生物検出情報は,それぞれ別の途を辿っており,患者情報即病原微生物検査情報としてのドッキングは今のままでは不可能である。患者情報そしてその原因微生物の検出という流れの確立が望まれる。そのためには検出情報を研究事業から行政事業に切り替え,サーベイランス事業に組み込むべきであろう。



島根県衛生公害研究所 伊藤義広


九州ブロック

地研の業務が多角化し,これを効率的に消化するためにはブロック内地研がそれぞれ特徴をもって相互に援助し合うことが必要となってきている。

ブロックごとの研修会,地研同士の技術交流を現在以上におし進めるべきである。

微生物菌株,組織培養細胞,抗原,抗血清等は各ブロックごとに世話役の地研を通じて円滑な供給がなされることが望ましい。

以上3点についてまずブロック内での話し合いを持ちたい。

技術蓄積が不十分な地研においては研究者自体の努力が望まれるのはもちろんであり,さらに人事行政の配慮も必要と考えられる。



熊本県衛生公害研究所 道家 直





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