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Vol.4 (1983/5[039])

<外国情報>
出血性大腸炎の集団発生(カナダのオタワ)


 1982年11月,カナダのオタワのある老人ホームで,353人の居住者のうち31名(8.8%)が胃腸炎の症状で発病した。患者は18日間にわたって発生した。8名の患者は軟便程度の軽いものであったが,18名は水様,出血性の下痢を伴なうより重い症状であった。軽症例は1〜2日,重症例は5〜15日の病期であったが入院例は4名で,うち1名は転移性の子宮癌で死亡している。

 31名の患者の便からは普通の腸内病原菌は全く分離できず,ただ大腸菌O157:H7が17名から分離され,特に水性血性便から分離率が高かった(軟便からの分離率38%に対して78%)。菌は下痢のはじまる時点から,便のかたまる時期まで継続して分離できた。

 ホームの台所でつくられた食事が原因食と推定され,ことに同一ロットのハンバーガーが疑われたが大腸菌O157:H7株の分離は成功しなかった。11月8日から16日にかけての患者はホームの2つの7階の建物の各階から発生しているが,16日以後の3名の患者(精神障害者を収容している)は同一階から発生しており,人から人への感染とみられた。

 カナダ国立疾病管理センター(LCDC)の腸内細菌レファレンスセンターは,分離株がE.coliO157:H7であることを同定し,易熱性,耐熱性毒素を産生せず,かつ侵入性もないが,Vero細胞に細胞毒性を示すこと,そして分離株の80%が4〜5日後にソルビトールを醗酵することを証明した。LCDCは1978以来,散発例としての胃腸炎からのE.coliO157:H7を6株受けとっている。記録のあきらかなうちの5株すべてが出血性大腸炎由来である。

 編集部註:この報告はE.coliO157:H7による出血性大腸炎の集団発生に関する第3番目のものである。この出血性大腸炎の病態生理はあきらかではないが,新しい毒素の可能性を示唆するものかもしれない。

 1982年8月以来,CDC(米国)は18の州から39例の散発的出血性大腸炎の報告をうけとっている。これらの患者便材料21のうち6からE.coliO157:H7が分離された。これらの株はソルビトールを徐々に分解するか,あるいは全く分解しない。CDCは調査を継続しており,1)腸けいれん,2)大量の出血性便,3)発熱はないか,軽微,4)日常的な腸内病原菌,寄生虫が陰性である急性の胃腸炎の報告を求めている。

(CDC,MMWR,32,No.10,133,1983)






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