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Vol.4 (1983/6[040])

<外国情報>
ブドウ球菌ショック症候群による死亡例


 これまで健康であった16才の少女が意識消失の状態で入院した。その前の2日間,下痢,はき気,そして嘔吐など不快症状があったが,入院直前までは特に病気というほどのことはなかった。入院時,四肢をうごかすことはできたが,疼痛に対しては全く反応がなく,体温39℃,頻脈(160/分),収縮期血圧60mmHg,拡張期血圧は記録不能であった。頸部に多少硬直があり,胸腹部前面にひろく赤い発疹がみられた。

 彼女はこの2日間,のどの痛みを訴えており,入院2日前に月経周期がはじまり,膣内にタンポンを使用した。他に特記することはなかった。さしあたって髄膜炎菌敗血症の診断のもとに,ペニシリンG(6時間ごとに3メガ単位),クロランヘニコール(初回1.5g,以後6時間ごとに500mg),サルファダイアジン(初回1.5g,以後6時間毎に1g)を投与し,またハイドロコルチゾン200mgを6時間ごとに与えた。しかし,全身症状は急速に悪化し,4時間の間に数回,時には2分にも及ぶ無呼吸を繰返すはげしい発作をきたし,一方,体温は上昇を続け40.1℃になった。この時期末梢の反射は消失し,補助呼吸が必要となった。心臓停止をかろうじて防いでいたが,患者の状態は悪化し,翌朝,入院後18時間で死亡した。死の直前,左手の皮膚の変色がみられ,小水胞の形成が認められた。この間の検査成績は,ヘモグロビン14.7g/dl,全白血球数21.4×109/l,うち多形核白血球は91%を占めた。血小板減少,脊髄液は透明で,血液同様に細菌培養陰性であった。膣分泌物とタンポンの培養で黄色ブドウ球菌の大量発育がみられた。菌は咽頭からも分離できた。肝機能検査によれば,アラニンアミノトランスヘラーゼが正常上限値の倍に上昇し,クレアチンホスホキナーゼは1439単位/l(正常上限130単位)であった。血中尿素は29.5mmol/lに上昇。

 剖検によれば,少量の透明,黄色の肋膜腔滲出液と中等度の腹水がみられた。膣には濃い黄色の膿があり,黄色ブドウ球菌が分離された。上部膣粘膜と子宮頸部の膣部に著明な潰瘍があった。膣由来ブドウ球菌はファージ型80/77であり,咽頭由来のブドウ球菌はこれとは関係のない別型であった。膣由来株はエンテロトキシンFを産生することが証明された。

(CDR,82/12,4,1983)






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