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厚生省統計概況による赤痢患者の年間発生数はここ数年1000人前後であるが,最近再び増加の傾向がうかがえる。
図1は最近4年間の赤痢菌検出報告数(保菌者を含む)である。左図は全国地方衛生研究所および保健所からの報告,右図は14都市立伝染病院(急性腸炎研究会参加病院)入院患者からの分離数で,両集計は独立に報告されているので,同一患者の報告が両集計間で一部重複していることになる(ただしそれぞれの集計では原則として同一人からの同型の複数分離は1株とされる)。前者は大規模な集団発生数が大きく反映した数であるのに対し,後者は都市における散発フォーカス数を比較的よく反映しているとみられる。集団発生の例として速報で病原体情報センターに報告された赤痢菌検出数と発生状況を表1に示した。
このような集発を反映して,菌検出数は地研・保健所集計では年次による大きな変動はみられないが,伝染病院集計でみた場合,年ごとにめだって増加し,しかもこの中の輸入例数は1982年には60%以上を占め,赤痢はわが国において輸入伝染病の様相を示している。感染地はインド,ネパール,パキスタンが最も多い。
図2に群別の検出報告数を示した。分離菌型はフレクスナー菌(B群)およびソンネ菌(D群)がともに40〜50%を占める。志賀菌(A群)およびボイド菌(C群)が少数ながら国内感染例として報告されるのは,輸入例からの感染とみられ,我が国でもこうした2次あるいは3次感染の地盤があるものとして注目される。
赤痢菌の薬剤耐性は,いずれの群でも極めて高率で,CP,TC,KM,ABPC,NA5剤のいずれかに耐性を示す株は1982年には検査総数の83%に達し,この中ではCP・TC・ABPC3剤に対する多剤耐性株が最も多く,全体の40%を占めている(表2)。個々の薬剤に対する耐性頻度は表3に集計した。TCおよびCPについては検査株の2/3あるいはそれ以上が耐性である。PPA,FOM耐性はまだ少ないが,KM耐性株は急増している。これら耐性株の分離頻度は国内,輸入例とも大差はなく,ますます増加の傾向にあることが問題である。
図1.年次別赤痢菌検出数
図2.年次別群別赤痢菌検出数
表1.集団発生における赤痢菌分離報告例(分離数および患者数は速報時点における概数)
表2.分離赤痢菌の抗生剤耐性(1982年)
表3.個々の抗生剤に対する赤痢菌の耐性(1982年)
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