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Vol.4 (1983/8[042])

<国内情報>
小学校におけるCampylobacter jejuni菌による食中毒


 千葉市内C小学校(在籍者1079名,教職員41名)で,昭和58年6月28日(火),腹痛,発熱,下痢を主訴とする欠席者が多いとの校医よりの連絡を所轄する中央保健所が受理,調査が実施された。その結果,患者糞便48件中39件からCampylobacter jejuni菌が分離された(児童26,教職員13)。最終的な罹患者は,児童,教員,調理従事者を含めて800人となった。

 届出での内容が発熱,全身倦怠感などの症状であったこと,当時(6月下旬)の天候が梅雨の曇天続きで,平年に比して2〜3度低い異常低温下にあったことや,学校でのプール開き直後であったことから,ウイルス性の疾患,とくにAdeno V.による夏かぜもしくは,いわゆるプール熱をも考慮されたが,その後の調査から(図1)むしろ下痢,腹痛が主訴であることが判明した。さらに,欠席者に学年,性別,地域等に集積性がみられないこと,家族や近隣,隣接小中学校に同様疾患の発生がないこと,教職員にも同様疾患の発病者がいることから,飲料水,あるいは学校給食による集団食中毒が想定されるに至った。事例認知後ただちに患者検体を採取したが,当日は火曜日であり,先週末,金曜日の給食保存食は,昭和44年厚生省食品衛生課長通達(環食第8758号)に従い,48時間以上の保存をこえたことから,月曜日27日廃棄処分されており,入手できず,直接的な原因食品追求は困難なこととなった。

 既知の細菌性食中毒は,通常1〜2日の潜伏期間であるのに対し,図2,3にみられるごとく,本事例では2〜5日に発症のピークがあり,C.jejuni菌は潜伏期間の長いことが認められた。今回,幸運にも患者側検体から原因菌と思われるC.jejuni菌が検体中81.2%の高率で分離されたが,もし,菌不検出であれば,保存検食廃棄後のことでもあり,本事例は,原因不明のまま終息したであろう。

 ここ2,3年頻繁にみられるようになったC.jejuni菌による食中毒の調査は困難なことが多い。昭和57年3月,NAG Vibrio菌等とともに厚生省より新たに食中毒菌の指定をC.jejuni菌も受けたが,その検査の対応についてはまだ不充分である。とくに潜伏期間が長く,発症までに日時を要する疫学的特徴のあることを念頭において検査システムを組む必要があろう。

 なかでも,検食の保存については,現行の48時間以上の保存期間に,あるいは表現(具体的な文章表現)に一考を要すると思われる。

(本事例の調査は,千葉県中央保健所(所在地千葉市)食品衛生課,検査課で実施されたものである。)



千葉県衛生研究所疫学 市村 博


図1.臨床症状
図2.日別発症患者数
図3.小学校における日別欠席数





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