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Vol.4 (1983/8[042])

<国内情報>
肺炎マイコプラズマの培養検査について


 肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae,以下M.pn)による異型肺炎は約4年周期で流行が繰り返されているが,1984年すなわち来年は流行年に当たるとの予測がなされている。一方で,厚生省サーベイランス事業にM.pn検索が新しく加えられ,流行年には各地の機関で培養検査が実施されるものと思われる。

 当衛生研究所では以前からM.pn分離培養について検討してきたが,1980年の肺炎流行の際に県内の病院の協力を得て臨床材料からの分離を試み,一応の成果をあげることができた。その少ない経験からではあるが,検査材料や分離培養法などについて気づいた点を以下に略記する。今後の参考になれば幸いである。

 検査材料:咽頭ぬぐい綿棒を,調整したPPLO液体培地に投入し,凍結保存(−30℃)したものを材料としたが,できれば凍結を避け,すみやかに増菌培地(二層培地に接種するほうが良いようである。また,私達の最近の経験では,患者の後鼻咽腔をぬぐった綿棒も好材料と思われる。

 分離培養と同定:基本培地としてPPLO broth(Difco)を用いたが,培地添加物のうちウマ血清については非働化したものを用い,添加濃度を15%にした。ウマ血清濃度がこれ以上に高いとロット差が出現しやすくなると同時に,M.pnの集落形成に悪影響を及ぼすことがある。1)

 培養は増菌法のみで行い,増菌培地としてはメチレンブルー,フェノールレッドおよびブドウ糖を添加した二層培地を用いた。メチレンブルー濃度はM.pn増殖にかなりの影響を及ぼすと考えられるので,実際に使用する前に一度検討したほうが良いと思われる。

 私達の経験ではこの二層培地による増菌の時点で,ブドウ糖を分解し,培地の酸性化が認められた場合は同定の結果全てM.pnであった。したがってこの時点で培養陽性との推定が可能と考えられる。M.pn増殖による培地酸性化に要する培養日数は検査材料接種後約一週間であるが,一ヶ月以上を要することもあるので注意することが必要である。また,雑菌増殖による培地酸性化があるので若干注意を要するが,変色状態が明らかに異なるので判断は容易と思われる。

 二層培地で増殖が認められた場合,その培養液を寒天培地に接種して培養し,集落形態を観察した。非目玉焼状集落を形成するのがM.pnの特徴とされているが,私達は目玉焼状集落が形成されたことも経験しており,絶対的な特徴ではないように思われる。

 これ以後,クローニング,生化学的試験そして抗血清による発育阻止試験を実施して同定した。私達の実施した生化学的試験はブドウ糖分解,アルギニン分解および鶏赤血球吸着等の各試験である。また,発育阻止試験はディスク法により実施したが,抗血清を浸み込ませたディスクを凍結乾燥した後冷蔵庫に保存すれば1年以上使用可能である。本試験用の抗血清は現在市販品が無いため,家兎免疫により作成したが,サーベイランス事業においてM.pn検索を実施する場合,この抗血清の入手をいかにするかが今後の課題の1つと思われる。

 神奈川県における肺炎マイコプラズマの分離状況:表1に1979年11月から1981年2月までに,計430名について実施したM.pn分離成績を示した。分離陽性者は67名,分離率は15.5%であった。流行予定通りに1980年がピークで,1981年初頭には分離率も著明に低下した。また,予測されていた流行年の前年,すなわち1979年の11月から培養検査を実施したが,表1のようにその時点ではすでにかなりの分離率を示しており,実施開始がやや遅れたようである。ちなみに,来年の流行年に向かって本年5月から開始したM.pn検索ではすでに57名中5名(8%)から分離されており,来年流行の兆候が現れ始めている。したがって,できるだけ早い時期に検査を実施できるように体制を整えておく必要があると考えられる。

 表2はM.pn分離陽性者のうち49名について臨床症状を整理したものである。抗体価測定はペア血清で実施できたのが26名であった。表2のように抗体価の上昇しない患者でも分離陽性例があり,このことからも抗体測定だけでは不充分で,培養検査も実施する必要があると考えられる。

 文献

  1)岡崎則男,ほか:肺炎マイコプラズマの発育に及ぼす馬血清,鶏卵黄および酵母エキス濃度の影響,神奈川衛研報告,9,37〜39(1979)



神奈川県衛生研究所 岡崎 則男


表1.神奈川県における肺炎マイコプラズマの分離状況(1979年11月〜1981年2月)
表2.患者の臨床像



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