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Vol.4 (1983/11[045])

<特集>
腸チフス・パラチフス


 腸チフス・パラチフスの患者発生数については伝染病予防法による届出統計があるが,病原菌側の検査情報としては,本検査情報システムにおいて腸チフス・パラチフス菌の分離数が速報される一方,厚生省公衆衛生局長通知(腸チフス対策の推進について,衛発第788号,1966年11月)に基づく報告カードシステム(主体:公衆衛生審議会・伝染病予防部会・伝染病対策委員会の下部組織である腸チフス小委員会)があって,これにより分離菌は国立予防衛生研究所に集められ,実施されたファージ型別成績が毎月本情報月報に掲載されている。この後者のシステムによれば,患者・病原菌の両方をつきあわせた情報,たとえば患者と保菌者の別や診断方法などの分析が可能なのでこれをもとにわが国の腸チフス・パラチフスの発生状況は他の統計よりもさらに精密に把握できる。

 近年日本の腸チフス患者,保菌者の届出数は年間大体300〜400例で,このうち輸入例はほぼ8〜10%を占め,いずれについても年次による大きな変動はみられない。これに対しパラチフスA型は発生数は少ないが,増加の傾向を示し,とくに輸入例が50%になっている(図1)。1982年中に腸チフスは全国40都県から313例(輸入28例)が報告された。このうち保菌者は30%である。パラチフスは21都県合計54例(輸入28例),保菌者は13%である。いずれも分離数に季節変動はなく,分離数の増加はもっぱら流行の発生によっている(図2,3)。この年の腸チフス流行としては,静岡市(7名),大阪市(6名)さらに3年前の流行の再燃とみられる八幡浜市(25名)の例があった。また,パラチフスA型の流行には韓国ツアーによる輸入例(8名)があり,患者は5都県にまたがった。

 ファージ型は広域にわたる流行の認識や感染経路,感染源の追跡などのために有力な指標となる。1982年に分離された腸チフス菌のファージ型別では,多いのはD2,E1,DVS(A degradedと同意),M1など(図4)で,これらは毎年日本で多く検出される型である。検出ファージ型は近年ますます多様化し,1982年には24型に及んだ。このうち輸入例からのみ検出された型が6種類ある(表1)。感染地は韓国およびインドネシアが多く各9例であった。

 分離株の薬剤耐性試験で本年クロラムフェニコール(CP)耐性パラチフス菌が1株検出された。CP耐性菌は東南アジアで多く報告され問題となっているので,腸チフス,パラチフスともにCP耐性菌の出現に警戒が必要である。



図1.腸チフス・パラチフス年次別発生状況
図2.腸チフス患者週別発生状況(発病日による分布)
図3.パラチフス患者週別発生状況(発病日による分布)
表1.1982年に分離されたチフス菌のファージ型分布と輸入例の罹患推定国別分布
表2.1982年に分離されたパラチフスA菌のファージ型分布と輸入例の罹患推定国別分布
図4.チフス菌のファージ型別 1982年





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