|
1981年に始まった今期の風疹の流行は,1982年に患者発生の大きいピークを示し,1983年は従来の流行パターン通り第3年次の比較的小さい流行像となったが,1984年に入ってもなお地域によってかなりの規模の流行が報告されている。
前回1975〜77年の流行は,その前の流行との間隔がほぼ10年あったために全国的流行としては最大の規模であった。今期はその後6年の周期で流行が始まったので,流行の規模は前回ほど大きくなく,中規模の流行とみなされる。全国集計における報告患者数は,1982年は約32万人(1患者定点あたり年間210.5人),1983年は1/4の約8万人であった。
病原体情報に報告された風疹ウイルス分離数は秋田,鳥取,島根県の成績であるが,1982年185株をピークとして,1983年は38株,本年は6月現在1株である(表1)。
厚生省流行予測事業において全国19県で実施された抗体調査成績について,今期流行前1980年と流行後の1983年の年齢別抗体陰性率(感受性者率)を女子について比較したのが図2である。この図では調査対象者の1980年と1983年の成績が同一縦軸上にくるように年齢をずらして作図してある。図にみるように,18歳以下の年齢層で陰性率の低下(すなわち抗体獲得率)が明らかにみとめられる。このうち,13歳以上については,対照として調査されたこの年齢の男子が平均50%程度の陰性率であることから,ここにみられる女子の陰性率の大きい低下は,この年齢の女子のみに実施されている定期ワクチン接種の効果であることが確認されている。したがって,今期の流行中,自然感染による陰性率の低下は,大部分学童年齢以下にみとめられ,これらの子供はいずれの年齢でも全国平均で20〜30%が感染したことになる。
風疹は日本では地域差の大きい疾病である。抗体陰性率でみると流行の中心となる5〜9歳群では,流行後の1983年においても,陰性率は沖縄および九州地方が高く,80〜100%を示すのに対し,宮城,埼玉,福井,山梨の各県における調査成績は30%以下となっている。全国的流行のすぎた本年に入って6月までに合計3千人以上の患者発生を報告したのは,抗体調査で陰性者が多く残されていた九州地方の3県(宮崎,鹿児島,沖縄)である。
依然として22歳以上の抗体陰性率が高く,風疹感染による被害が問題であるこの年齢群で,全国平均で約30%,地域によっては50%以上の感受性者が残されていることが懸念される。
図1.風疹の患者発生状況(感染症サーベイランス情報)
図2.年齢別風疹抗体陰性率(感受性率)(女)(1983年流行予測事業成績速報)
表1.年度別風疹ウイルス検出数
表2.1983年県別年齢別風疹抗体陰性率(女) 1983年流行予測事業暫定数
|