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日本脳炎の媒介蚊であるコガタアカイエカが,近年水田に散布される農薬の影響によって高度の殺虫剤抵抗性を獲得していることが富山医科薬科大学の上村らによって報告され,全国的な実態を把握することが必要と思われた。そこで,1984年,14府県の衛生研究所等の協力を得て,7月から9月にわたって各地の蚊を採集し,予研宛送付された材料につき終齢幼虫の各種殺虫剤に対する抵抗性の状況を調査した。調べたサンプル数は16で,長崎県では異なる採集地点での2ヶ所,大分県では同一採集地点で採集日の異なる2サンプルを試験した。用いた殺虫剤は有機燐剤5種,カーバメイト剤2種,ピレスロイド剤1種の計8種類で,室内殺虫試験により終齢幼虫のLC50値(幼虫の50%を死亡させる殺虫剤の濃度,単位はppm)を求め,感受性標準系統として定めた台湾系コガタアカイエカのLC50値との比をもって抵抗性比とした。これらの殺虫剤のうち,有機燐剤のtemephosとピレスロイド剤permethrinは農薬としては用いられていない。
結果は2つの表に分割して示してあるが,いずれの地域においても有機燐剤とカーバメイト剤に対してコガタアカイエカが強度の抵抗性を獲得している。特に有機燐剤に対しては数千倍から数万倍の抵抗性比を示すものがほとんどであって,現在では水田に散布される農薬ではまったく防除効果を期待しえない蚊が全国的に広まっていると考えられる。
かつて1960年後半に農薬が有機塩素剤から有機燐剤やカーバメイト剤に切りかえられた時点では,コガタアカイエカはこれらの新殺虫剤に対してきわめて感受性が高く,1970年代の媒介蚊の減少に役立ったと考えられている。だがそれから十数年を経た今日,強度の抵抗性を持った蚊の出現が今後の日本脳炎の流行にどのようなかかわりを持つかを注視する必要があろう。もちろんこれが往時のような大流行の復活につながる可能性はほとんど考えられないとしても,なにがしかの影響を与えるであろうことは充分に予想される。なお,本調査成績についての詳細を知りたい方は,別に印刷物ができているので,国立予防衛生研究所衛生昆虫部宛ご照会下さい。
国立予防衛生研究所 高橋三雄
表1.各地のコガタアカイエカ幼虫の有機燐剤に対するLC50値(ppm)と台湾系に対する抵抗性比(1984年)
表2.各地のコガタアカイエカ幼虫のカーバメイト剤とピレスロイド剤に対するLC50値(ppm)と台湾系に対する抵抗性比(1984年)
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