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1984年4月1日から12月30日間にインディアナの地方郡(人口35,000)で9名のHB患者が発生した。これは過去の年間発生の9倍だった。2名は劇症肝炎で死亡した。他の1例は結節性多発動脈炎,多発性単神経炎および麻痺を併発した。1例以外は郡内の一歯科医の治療を受けていた。
9月半ばに,それまで20年間その郡で一般家庭歯科医として週あたり100〜150名を診療していたその歯科医が,それまでの3名のHB例が全部彼の患者であることに気付いた。彼はHBsAg検査結果が陽性だったので自発的に診療をやめ,衛生当局に届け出た。調査により,4月1日〜10月1日にHBを発症した7例が彼の患者であることがわかった。すべてHBsAg陽性,サブタイプad,入手しえた6血清は全部抗HBcIgM陽性で最近の感染の可能性を示した。歯科医はHB感染は気付かなかったが彼の血清はHBsAg陽性,サブタイプad,HBeAg陽性,抗HBcIgM陰性だった。
この歯科医は患者治療時手袋をつけなかったが,手の切傷や皮膚炎については否定している。肝炎歴はなく,彼の患者中にHBキャリアがいたかどうかは不明,歯科診療以外のHBリスク因子は否定した。供血および肝炎の血清検査をしたことはなかった。1984年4月25日と5月30日,HBワクチンを初めて2回受けた。
その後,HBsAg陽性のため供血をことわられた住民のリスト中に,5〜7月に数回その歯科医にかかった者がみつかった。彼女は3月には供血し8月にことわられ,11月に発症した。
1HB患者の配偶者がHBsAg陽性,サブタイプad,HBeAg陽性,抗HBcIgM陰性だった。彼は最近2年以上その歯科医にかかっていないが,他のHBリスク因子があった。他の患者家族にはHB陽性者はいなかった。患者は発症3〜5ヶ月前その歯科医の治療を受けた以外にHBに対するリスク因子はない。デルタウイルス抗原,抗体は全員陰性。
編者註:HBは歯科専門家に深刻なリスクであるが伝播例は多くはない。歯科医または口腔外科が原因のHB発生が7例報告されている。それぞれ歯科医がHBウイルス慢性キャリアでHBeAg陽性なのでウイルスが高力価に血液中にあることが示されている。皆治療時に手袋をつけなかった。ウイルス伝播は歯科医の手の傷や皮膚炎から感染性血清によって患者の口へ伝播すると考えられる。不顕性伝播を含め,全体の感染は100患者あたり1.5から11.1。伝播のリスクは歯科治療の切傷の量と関連がある。キャリアである歯科医では手袋の着用が伝播阻止に有効だった。
今回の発生は再び,HBsAg陽性歯科医が気付かずに患者へHBを伝播しうることを示した。疫学的,血清学的成績はこの歯科医が1984年1月以前つまり4月に始まったHBワクチン投与前に,多分HBキャリア患者治療中に感染したことを示唆している。歯科医と患者のサブタイプが一致したが,adは米国では一般的だから,感染源について十分納得のいく証拠とはいいがたい。
この発生における致死率22%は入院患者(通常1%)に比べ非常に高い。そのうえ1患者は重症の結節性多発動脈炎を併発したが,この合併症は1:500以下の発生頻度である。CDCはnonB肝炎ウイルスがこの発生のcofactorである可能性について検討を続けている。本例は死亡例のでた歯科医原因HB発生の最初の報告で,まれとはいえ深刻な結末を示している。歯科医へのHBワクチン投与を強化する必要が強調される。
(CDC,MMWR,34,No.5,1985)
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