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Vol.6 (1985/7[065])

<国内情報>
耳下腺腫脹をきたす疾患からのウイルス分離


流行性耳下腺炎はサーベイランス事業の中で検査対象となっていない疾患の1つである。これは臨床的に容易に診断できるという理由によるが,一方では,本症の既往歴,ワクチン接種歴があるにもかかわらず耳下腺腫脹をきたすことも少なくない。血清検査での確認があればこの問題は解決されるが,実際にはペア血清の採取は困難な場合が多い。

鳥取県では耳下腺腫脹,主として片側の耳下腺腫脹をみる小児からのウイルス分離を行ってきた。

昭和53年から59年の7年間に,6定点医院で,本症または本症を疑う301名の咽頭ぬぐい液が得られた。ムンプスウイルスの分離を目的としてVero細胞,その他のウイルスを目的としてFL細胞,時にHEp2細胞,MK細胞を併用した。

1.材料採取時の唾液腺腫脹部位とムンプスウイルス分離状況

片側の耳下腺腫脹で25/60(42%),腫脹部位不明(記載はないが片側耳下腺腫脹が大部分を占める)で72/174(41%),両側耳下腺17/29(59%),片側顎下腺3/8(38%),両側顎下腺1/1(100%),片側耳下腺+片側顎下腺7/7(100%),両側耳下腺+片側顎下腺3/3(100%),片側耳下腺+両側顎下腺1/1(100%),両側耳下腺+両側顎下腺13/14(93%)片側顎下腺+舌下腺1/1(100%),耳下腺+顎下腺+舌下腺3/3(100%)の分離率であった。

一方,301例中5例からはムンプス以外のウイルスが分離され,それらはCox.B2型(2),Cox.B5型(1),アデノ2型(1)およびヘルペス(1)である。

腫脹が2腺以上に及ぶ場合にはほぼ100%の分離率であったが,両側耳下腺腫脹で58%,片側耳下腺腫脹で42%と分離率が低下している。このことは排出されるムンプスウイルス量に関係するのか,あるいは他の原因によるものであるかは,血清検査の裏付けが少なく不明である。

2.ムンプス性髄膜炎

7年間,臨床的にムンプス性髄膜炎とされた48名から材料が得られ,14名からムンプスウイルスが分離された。髄液で3/36(8.3%),咽頭ぬぐい液13/39(33.3%)の分離率であり,1.で示した分離率より低い。このことは耳下腺腫脹後1週間位経てから髄膜炎を併発する場合が多いこと,および抗体産生との関連があるように思われる。

本症と診断された中で4名からムンプス以外のウイルスが分離された。Cox.B5型2名(髄液2,咽頭2,便1),Cox.B3型1名(便),ロタ1名(便)の3種類のウイルスで,少なくともCox.B5型は1.の結果と合わせて耳下腺腫脹に関係したウイルスであろうと考えられる。

この他に唾液腺症状のない髄膜炎患児からムンプスウイルスが分離され,ムンプス性としたものが2例ある。

以上の点からムンプス性髄膜炎と臨床的に診断された場合でもムンプス以外のウイルスも考慮して検査を進める必要があり,また,唾液腺症状のない場合でもムンプスウイルスを無視できない。

3.反覆性耳下腺炎

2回以上耳下腺腫脹をきたした31名32件の咽頭ぬぐい液のうち,3名4件からムンプスウイルスが分離された。他のウイルスは分離されていない。このことは腫脹を繰り返すうちの1回はムンプスウイルスが関与している可能性があることを示している。

以上,鳥取県での耳下腺腫脹をきたす疾患からのウイルス分離結果について述べた。



鳥取県衛生研究所 石田 茂,寺谷 巌





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