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Vol.6 (1985/7[065])

<特集>
流行性耳下腺炎


流行性耳下腺炎はムンプスウイルスに起因する疾患である。このウイルスは耳下腺だけでなく,他の唾液腺,脾臓,睾丸,卵巣,乳腺,涙腺などの臓器や,脳,髄膜などの中枢神経系にも合併症を起こしやすいことが知られ,全身感染症としてとらえられている。

感染症サーベイランス情報における一定点医療機関あたりの流行性耳下腺炎患者発生数は図1にみるように,1982年に比べ,1983年の秋から1984年にかけて少なかった。しかし,この年の末より徐々に増加して,発生の多かった1982年にほぼ接近してきており,本年6月現在なお上昇中である。

表1に一定点あたり患者発生数の多い県と少ない県を上位5県ずつ並べた。1982〜1983年は西日本を中心とした流行であり,本年は比較的東日本を中心として全国的に広く流行している様子である。

流行性耳下腺炎の患者年齢分布は,最近3年間ほとんど変らず,1〜4歳が約半数を占める。さらに,5〜9歳が45%前後で,この年齢群の割合は水痘,麻疹などに比べて高い。(表2)。

図2はムンプス抗体の保有状況について1983年秋に厚生省流行予測事業で収集された関東地区の健康人の血清についてELISA法で測定した成績である。年齢群別にみると,5歳以上の年齢群では80%以上が抗体陽性である。これに対し,4歳以下,特に2歳以下は抗体陽性率が低く,この年齢群で感受性者が蓄積されてきたことを示している。今後の感染予防と流行阻止のためには,これら年齢群へのワクチン接種が必要であろう。

流行性耳下腺炎は臨床診断が容易なため,患者発生数の割にはウイルス分離検査が実施されることが少ない。ムンプスウイルス分離成績としては毎年数十株の報告があり,1981〜1984年の4年間にこれまで289株が報告されている。この報告について分離材料をみると,253例が鼻咽喉材料,42例が髄液である。

臨床症状としては発熱が170(59%),唾液腺腫脹(耳下腺腫脹をふくむ)が118(41%),上気道炎92(32%),髄膜炎52(18%),リンパ節腫脹47(16%)などが報告されている。このうち唾液腺(耳下腺)腫脹・リンパ節腫脹を伴わない例からの検出が132と多く,とくに髄膜炎例52例中45例はそのような例からの検出である。1981〜1984年に髄膜炎患者からの検出が報告されたウイルス約2000株のうち9割はエンテロウイルスで,ムンプスは2.3%にすぎない。これはムンプス髄膜炎の場合,ほとんどが臨床的に診断がつくことによるもので,報告数が少ないとはいえ無菌性髄膜炎の病因としてムンプスは最も重要なウイルスである。上記の分離成績は,臨床的にムンプスと診断されない場合でもウイルス分離を行えばムンプス感染が確認される例がかなり多いことを示している。



図1.一定点医療機関当たり流行性耳下腺炎患者発生状況(感染症サーベイランス情報)
表1.年次別県(市)別患者発生状況(感染症サーベイランス情報)(一定点当たり患者発生数の多い県,少ない県を上位5県ずつ並べた)
表2.年次別年齢群別患者発生状況(感染症サーベイランス情報)
図2.年齢群別ムンプス抗体保有状況1983年秋・関東(栃木・群馬)(予防接種研究班 予研・坂田)





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