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32歳の男性が嘔吐,腹痛,血性水様下痢便を訴えて一般内科医に送られた。検査室試験ではカンピロバクター,サルモネラ,赤痢あるいはエルシニアを証明できず,間接光学蛍光顕微鏡でオーラミン染色糞便塗抹標本にクリプトスポリジウム卵嚢胞が多数見出された。
感染源に関して,患者は最近出国しておらず,免疫抑制的な治療は受けていなかった。最近家族に下痢をした者もなく,集団発生の一部らしくもなかった。彼は農場の動物との接触もなく,一匹のイヌを可愛がっていたがそれは健康で最近下痢をしたこともなく,糞便中にクリプトスポリジウム卵嚢胞は排出していなかった。患者が提供した情報によると,イヌのためにウシの胃袋を料理していた際,そのいくつかを口中に入れてしまった。その胃袋は冷凍物で購入後冷凍保存し,食べる前に加熱しなかった。
胃袋の標本を滅菌四倍希釈リンゲル液で激しく洗い,洗浄液を750〜1500Gで10分間遠心し,検査室試験をした。遠心沈渣をスライド3枚に塗抹し,オーラミン,ジュンナーギムザ,チールネールセン変法で染色した。クリプトスポリジウム卵嚢胞が少数分散してみられ,8個の卵嚢胞のかたまりが組織片(おそらく胃粘膜と思われる)の縁に付着していた。胃袋をヘマトキシリンやエオジンやオーラミンで染色した組織切片には多数の細菌があったが,クリプトスポリジウムは見えなかった。
この報告に対する註釈を加えれば,ヒトのクリプトスポリジウム症は農場の動物,家庭内ペット,および感染した個人,殊に子供と直接触れ合うことによっておこるという証拠がある。水や殺菌していない牛乳が感染を伝播すると示唆されている。クリプトスポリジウムとカンピロバクター感染症の混合発生においては,対照群よりもソーセージをよく食べる人に症例が多いことが見られている。この例は摂食した食物標本中に原因生物が証明されたクリプトスポリジウム症の最初の記録例である。
クリプトスポリジウムは通常哺乳動物の小腸,大腸中に定着するが,扁桃,気管支,胃,膵臓,胆管および胆嚢につくこともある。この例における胃袋は,おそらくクリプトスポリジウムが定着していたのであろう。ヒトが胃袋を食用するにはよく洗って煮沸し,さらすという過程を経るが,他の材料に汚染されてサルモネラ感染症をひきおこすこともある。煮沸すると卵嚢胞は死滅する。冷凍材料の摂食後感染は冷凍されても生残できることを示し,クリプトスポリジウムが冷凍によって殺されるという実験的研究とは食い違っている。
イヌに卵嚢胞がなかったことは,繰り返しの暴露で免疫されたのかもしれない。ネコとイヌのクリプトスポリジウムは個体から個体へと直接受け渡されることもあろうが,この症例は病原が食物由来である。食料の残屑は重要な感染源である。
(CDR,85/17,1985)
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