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Vol.6 (1985/9[067])

<国内情報>
1984年日本脳炎ブタ情報・患者情報まとめ


1.1984年ブタの日本脳炎感染調査

A)感染のはじまり

前年と同様に本年もわが国のブタの日本脳炎感染は沖縄県で最も早く,6月26日採血の時点でHI抗体陽性率は50%を越えた。その後約1.5ヶ月後の8月6〜7日に九州地方の長崎,佐賀の両県と本州中部の愛知,滋賀の両県でブタのHI抗体陽性率が50%を越えた。この沖縄と本土の日本脳炎開始時期の大幅な差は両地点のコガタアカイエカの発生に大きく関連する気象条件の差異によるものと思われる。本土における8月〜6〜7日のブタ感染開始は平年並であり,昨年に比べると11〜12日遅い。

B)感染のひろがり

九州と本州中部で始まったブタの日本脳炎感染は,両地点から隣接地に次第に波及し,8月末の時点では大分県を除く九州6県,本州では京都,福井,石川の日本海沿岸部,大阪,奈良,和歌山の近畿諸県でブタ感染が50%を越えた。注目すべきはこの時点ですでに,千葉,茨城の関東の主要米作地帯で激しいブタ感染が起こっていることである。

9月に関東地方全都県,山梨,長野,新潟県にブタ感染が波及したが,東北では秋田の1県のみが9月11日の採血時に56%のブタがHI抗体を保有していた。この秋田県の濃厚なブタ感染は1982年にも観察されている。

図1に本年度調査終了の時点10月末における全国都道府県のブタ感染頻度分布を示した。

U.日本脳炎確認患者調査

表1に1984年におけるわが国の患者発生をまとめた。これらはいずれも血清学的に確認されたものである。患者総数は27名,死者は5名で,致命率は18.5%であった。注目すべきは死者の死亡病日の長いことで,28〜71日(平均47.6日)であった。このことは致命率の低下と共に近年の治療法の進歩を示すものであろう。にもかかわらず,全治率は11/27(44.4%)にとどまるということでもこの疾病の重症度はわかる。

九州地方で全患者の81.5%の患者が発生しており,ブタ感染で示されたように,同地方の比較的高汚染が考えられる。神奈川県の5歳の少女は発病6〜13日前に熊本市に滞在したという既往歴があり,日本脳炎の潜伏期を考えると熊本市で感染した可能性は否定できない。患者はほぼ全年齢層に発生しているが,6〜13歳のワクチン年齢層に発病者のないことはワクチンの有効性を示唆するものであろう。



予研 大谷 明


図1.ブタの日本脳炎感染状況 1984年
表1.1984年日本脳炎確認患者(日本脳炎患者個人票による)





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