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近年,交通の発達につれ海外との交流が盛んになり,海外で感染し日本に持ち込まれる輸入感染症がクローズアップされている。マラリア,コレラが代表的であるが,マラリアは伝染病予防法中の届出伝染病として,コレラは同法中の法定伝染病と,検疫法中の検疫伝染病としてその詳細が把握されている。
世界のコレラ発生状況
世界各国でのコレラ発生状況は,各国からWHOに届け出られた数字により把握することができる。1975年は世界各国で約9万人のコレラ患者が発生し,そのうち20人が輸入例であった。その後やや減少傾向を示しており,1980年は36,815人,輸入例が52人,1984年は28,893人,輸入例が60人となっている(表1)。
各国別に1984年の発生状況を見ると,インドネシアが7,921人と抜きん出て多く,次いでニジェール3,788人,タンザニア2,600人,インド2,519人,バルキナファソ2,191人などである。アメリカは輸入例が1人,ブラジルは0,フランスは1人,イギリスは輸入例が5人となっている。
州別に見ると,アフリカ州17,060人,アジア州11,801人となっており,この2州の発生数が全世界の大部分を占めている(表2)。
日本の発生状況
厚生省伝染病統計における日本のコレラ患者の届出は,1947年以降1976年までは非常に少なく,1963年および64年にそれぞれ1例および2例が記載されたのみであった。しかし,1977年以降は再び真性コレラ患者が毎年届け出られるようになった。集団発生例としてめだつのは,1977年,和歌山県有田市他7市町村における真性23人,保菌58人,疑似18人,合計99人の発生である。さらに,1978年には上野池之端を中心とした流行で真性18人,保菌31人,計49人の集団発生があった。この流行は輸入冷凍ロブスターの一部汚染が原因として疑われた。以後毎年数十人の発生であるが,その大部分が輸入例である(表1)。
1985年コレラ患者の詳細
患者の発生時期,発生地については,海外ツアーの集団発生があった5月に患者数が多いが,それ以外はだいたい各月に,また,発生地も全国各地に分散している。患者の態様別では,41人中34人が真性患者,5人が保菌者,2人が疑似患者である。感染地別では,インドネシアが最多で,次いでフィリピン,インド,タイ等であるが,海外渡航歴のない者が4人いるのが注目される。型別では真性,保菌39名中,輸入例の真性患者3人のみがエルトール稲葉型で,残りはすべてエルトール小川型であった。最近7年間の型別真性患者数をみると,エルトール小川型が多くなっている(図1)。
厚生省生活衛生局検疫所業務管理室による1985年中の輸入食品からのコレラ菌検出報告(表3)は,東京検疫所4件,横浜検疫所3件,成田検疫所1件,門司検疫所1件であった。産地国はインド,フィリピン,バングラデシュ,台湾,インドネシア,タイで,品目は冷凍エビ,スッポン,冷凍イイダコであった。
以上のように,日本に関係のあるコレラ感染地は東南アジアが中心となっている。
図1.菌型別コレラ患者発生状況(斜線部は輸入例の再掲)
表1.世界および日本のコレラ発生状況
表2.国別コレラ患者発生状況(1984年)
表3.輸入食品からのコレラ菌検出状況(1985年)
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