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1985年7月に毎日サイクロスポリンA250mgとプレドニソロン5mgを服用していた22歳の男性腎移植患者が4日間下痢,食欲不振および重症けいれん様腹痛をおこした。患者は脱水症状と発熱(37.8℃)があった。糞便標本が検査に出されW度輸液治療が開始された。
慣例の培養試験(キシローズ,リジン,デスオキシコレート,クエン酸デスオキシコレート,チャコールセフォペラゾンデスオキシコレート寒天,テトラチオネートおよびセレナイトブロス)によって増菌培養ブロスからネズミチフス菌とカンピロバクターの一種が分離された。微好気条件下の37℃培養でカンピロバクターの感受性試験をおこなうとエリスロマイシン(5μg)とテトラサイクリン(10μg)にディスク法で感受性だが,ナリディクシン酸(30μg)には抵抗性が示された。われわれは通常カンピロバクター分離株について,C.jejuni/coli以外の種を選択するためにナリディクシン酸感受性を試験している。ナリディクシン酸耐性株の分離株はわれわれにとって最初であったので,37℃と43℃とで感受性試験を繰り返した。
37℃ではその分離株はナリディクシン酸に完全な耐性を示したが,43℃においては耐性によって発育した菌苔内部に容易に識別できる阻止帯像が明瞭であった。植えつぎをすると最終的には2つの異なった菌が得られ,A菌は37℃でも43℃でもナリディクシン酸耐性を保っていたが,B菌は両方の温度で感受性であった。2つの菌はSkirrowとBenjaminの簡便化された方法を用いてA菌はC.laridisとB菌はC.coliと同定された。
この症例ではどちらの菌が患者の病気を起こしたのか言えない。症状がエリスロマイシン療法開始後2日以内で消失した事実と,その後の糞便培養では増菌培養中にはサルモネラがまだ存在したが,カンピロバクターは出なかった事実はカンピロバクターが原因であると示唆している。患者は肉屋で,最近鶏肉を食べなかったとはいえ,家禽を含む生肉にはしばしば接触していた。患者の父,兄弟と同僚が同時期に軽度の下痢をしている。彼らと共通する唯一の因子は症状が出る一週間前にリンカーンシャイア海岸に旅行して水泳をしたことである。
(CDR,85/45,1985)
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