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Vol.7 (1986/4[074])

<国内情報>
AIDSのウイルス学的検査法


 AIDSの原因ウイルスがRetrovirus科のLentivirus亜科に属するLAV/HTLV−V(以下AIDSウイルスと略称する)であることが1984年に証明されてから,AIDSのウイルス学的検査が可能になり,AIDSウイルス感染症に,無症候ウイルス保有者,AIDS関連症候群(ARC),臨床的AIDSの3段階があり,血液あるいは精液を通しての感染源としては3者共,同等であることがわかり,AIDSウイルス保有者の検索は新たな疫学的意義を持つに至っている。

 AIDSウイルスの分離は,末梢血中の単核細胞をInterleukin-2またはPhytohemagglutininで刺激し,インターフェロンに対する抗血清の存在下で培養して継代を重ねると,Mg++依存性の逆転写酵素活性が出現してくることを指標にしてレトロウイルスの増殖を把握することで行われるが,1)2)3) 培養が難しく,また,逆転写酵素の測定も一般向きでないので,診断を目的としたウイルス検査には適さない。AIDSウイルスの抗体保有者が,同時に感染性ウイルスの保有者であることが証明されて以来,ウイルス学的検査としてはAIDSウイルスの抗体検索がもっぱら行われる。実用に供されているのはELISAとWestern blot(WB)法であり,ELISAはスクリーニングに,WB法は確認試験として用いられる。我が国では,間接蛍光抗体法(IFA)が開発され,スクリーニングと確認の両目的に使える方法として広く行われるようになった。

 WB法4)は,精製したウイルス粒子より抽出した蛋白成分をスラブゲルSDS−PAGEにかけ,固有の構造蛋白質成分に分れた所で,ニトロセルローズ膜に転写し,その上で血清中の抗体と反応させ反応の起こり方を酵素抗体(ペルオキシダーゼ)の発色で確認するもので特異性は高いが,抗原とするウイルス液は電気泳動にかける前に培養上清を約1,000倍濃縮しなくてはならないので,一般向きではない。最近,米国ではWB用抗原スリップが市販される方向にあるので,これが入手できるようになれば,WB法は一挙に普及することになろう。ELISA5)は,精製ウイルス粒子より抽出した蛋白質成分を抗原としてマイクロタイタープレートの固相に固定して反応を行わせるもので,米国とフランスの数社でELISA検査キットが発売され,我が国でも1986年2月より輸入許可が出て一部が入手可能となった。米国FDAによる検定の結果では,このキットにより判定される抗体陽性例のうちの約2%はWB法で陰性となりfalse-positive(偽陽性)の疑いが濃いので,ELISAキットの結果のみで,AIDSウイルス感染の診断をしてはならないとされている。我々の予備的研究でも,被検血清の保存状況によっては,IgGに変化がなくても,偽陽性の率が大幅に上昇することを観察している。

 我が国では,AIDSウイルスに感染性の高いヒトT細胞株(TALL−1株)にウイルスを感染させ,抗原が十分に蓄積された状態で塗抹標本を作り,これを抗原としてIFAを行う方法が開発され6),WB法に匹敵する特異性とELISAキットに匹敵する簡便性を有するものとして普及しつつある。英国のKarpasは,自ら開発したKarpas−T細胞株はウイルス増殖がよく,抗原の蓄積量も多いので,これを濃度塗抹にして,酵素抗体法を塗抹上で行わせ,発色による反応の存否を肉眼で判定できる方法を提唱している7)。これがさらに実用的に洗練されれば,IFA法と並んでスクリーニングと確認を同時になし得る方法として評価されるものと思われる。

 国際的な検査方針を要約すると,供血者の抗体スクリーニングでは,市販のキットにより同一血液についてELISAで2回繰り返し陽性と出たものは,輸血や血液製剤の原料には不適当として捨てる。症例の診断に当たっては,ELISAで陽性と出たものをさらにWB法にかけ,ここで陽性と出たものをAIDSウイルス感染者と判定する。また,IFAで陽性と判定され,稀釈法による力価があるレベル以上であれば,ELISAやWBを省略しても感染者と判定することができる。

 文献

1)Barre-Sinoussi, F., et al.: Science, 220, 868 (1983)

2)Provic, P., et al.: Science, 224, 497 (1984)

3)Levy, J.A., et al.: Science, 225,840 (1984

4)Kalyanaraman, V.S., et al.: Science, 225, 321 (1984)

5)Safai, B., et al.: Lancet, i, 1438 (1984)

6)栗村敬:日本ウイルス学会シンポジウム,1985年4月,京都

7)Karpas, A., et al.: Lancet, ii, 695 (1985)



国立予防衛生研究所 北村 敬





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