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Vol.7 (1986/4[074])

<国内情報>
小学校の移動教室で発生したカンピロバクター集団下痢症について


 東京都では年間3〜5例のカンピロバクターによる集団下痢症がみられ,1979年より1985年の7年間で36事例を明らかにした。東京都での発生例には他府県への修学旅行や合宿中に発生したものが多く含まれている。1985年6月,小学校の移動教室の際に発生した事例は同一施設を利用した各グループが連続して発病した特異な流行例であったので本例について紹介する。

 発生状況:1985年6月17日〜19日にかけて移動教室に参加した小学生にカゼ様症状がみられ,病因に受診した患者2名よりカンピロバクターが検出され,6月28日に医師より保健所に届出があった。調査の結果,移動教室に参加したすべての小学校で同様な患者発生がみられた。すなわち,6月15日から6月27日までの間に板橋区の28の小学校が12斑に分かれ,某県に旅行し,参加した小学生3,262名中699名(21.4%)および職員192名中11名(5.7%)が食中毒症状を呈した。各学校ごとの発病率は表に示すごとく,最も高いのがB斑No.3小学校の61%で,平均では20.6%であった。2泊3日の旅行で,各斑とも同一スケジュールに従い,同一の2旅館を利用した。

 主要症状:各班とも同様な症状が観察され,710名の主症状は腹痛(72.1%),下痢(52.7%),発熱(35.0%),頭痛(20.6%),嘔気(16.0%),嘔吐(5.0%)および倦怠感(23.2%)であった。下痢はほとんどが水様便で,12.8%に粘血便がみられた。発熱は37〜38℃で,39℃以上は8.7%にすぎなかった。

 カンピロバクターの検出状況と分離菌株の血清型:事件の探知が遅れたため,発病後10日以降に細菌学的検査が実施された。B斑のNo.3とNo.4の学校については最も早く検査が実施できた。No.3では127件中27件(21.3%),No.4では152件中20件よりC.jejuniが検出された。その他の小学校では発病後2週間以降の糞便を対象にしたものが多く,C.jejuniの検出率は数%にすぎなかった。

 分離菌株について都衛研で開発したスライド凝集反応による血清型別を行ったところ,分離菌株85株中61株(71.8%)が型別でき,その血清型は18種の型に分かれた。注目すべき成績として,B斑のNo.3とNo.4ではTCK1型が共通して高頻度に検出された。

 原因食品の追求:各班とも同一コースで同一旅行で同一メニューの食事や同一メニューの弁当を喫食していることから,原因食品はこれらの施設の食事あるいは飲料水が疑われた。

 長期間にわたる発生より水による連続曝露も考えられたが,移動教室が利用した各旅館などの施設は市営上水道あるいは滅菌された自家水道を利用しており,細菌学的検査からも飲料水が原因とは考えられなかった。また,移動教室の団体以外にも他の団体が同一旅館を利用していたが,これらの団体からは患者の発生がみられず,水系感染は否定された。

 旅館の食事や昼食の弁当についても疫学調査を行ったが,本流行例の原因食品を明確にすることができなかった。ただし,分離菌株のC.jejuniの血清型が多岐にわたっていたことから,同一の血清型菌の連続汚染による感染ではなく,搬入された肉類などの原料が高頻度にカンピロバクターで汚染を受けていたことが推察された。A旅館ではとり肉,B旅館では豚肉を用いて調理されており,調理従事者の不注意により,原料肉からキャベツなど生食用の食品にカンピロバクターが汚染したことも否定できない。

 以上のごとく,本流行例については汚染源や原因食品を救明できなかったが,同一施設を利用した各小学校が連続的にカンピロバクターに感染した特異な集団下痢症例であった。



東京都立衛生研究所 伊藤 武


学校別の発生状況および分離菌株の血清型別





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