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Vol.7 (1986/5[075])

<国内情報>
千葉県におけるYersinia pseudotuberculosis感染症の集団発生事例


 県衛生部は,昭和61年3月18日午後,印旗郡酒々井町教育委員会より,町立大室台小学校で発熱,発疹を主徴とし,約3割の生徒が欠席した旨の連絡を受けた。ただちに,生徒の欠席状況,患者の症状,給水系統,給食関係の調査を開始した。生徒の日別欠席状況は,16日,20〜23日の休日および臨時休校日を除いても,17〜19日にかけ170〜400名以上の日別欠席者がみられた。地元医療機関の診察医により,患者発生は15日夜からで,16日も同様な罹患々者が確認されている。その後の調査で,小規模ながら町立酒々井小学校にも患者発生が認められ,4月20日現在までの有症者の内訳は,大室台小学校,在籍生徒1,075名,教員35名,計1,110名中518名(教員1名を含む)を数え(発症率46.7%),一方,酒々井小学校では在籍生徒1,162名,教員44名,計1,206名中31名(発症率2.6%)に達した。今回の患者発生が同町立の2つの小学校生徒と教職員に限られ,同地域の住民や児童に発症者が認められないこと,2校共に発症日時が同一分布を示すこと,さらに校内の各学年および学級間で有症者数にあまり差異が無いことなどから,学校給食,もしくは給水系に起因する単一暴露の疾患が推測された。しかし,当該小学校の給水系統および水質調査成績に特別な指摘事項が無いので,これらの学校へ給食を調理搬入した町営の学校給食センターに強い疑いが持たれた。同施設は,小学校2校,中学校1校の計3校へ常時給食を供給しているが,中学校には有症者が皆無であるため,加工食品の製造ロットの差によるものなのか,あるいは給食メニューの相違に基づくのか,原因を調査中である。

 微生物学検査は,検食,使用水および患者便,血液,うがい液等について実施した。臨床症状から,当初は風疹,猩紅熱,溶連菌感染症の疑いも持たれ,細菌,ウイルスについて検索が行われたが,3月24日,患者20名中12名(60%)の便よりYersinia pseudotuberculosisが検出された。分離用培地はSS,マッコンキー,CIN(oxoid)寒天培地により,また,増菌培養はM/15PBS(pH7.6)を用いて血液を除くすべての検体に実施した。なお,分離株の血清型は4b,薬剤感受性試験の成績は,多くの薬剤に感受性を示した。

 本菌による臨床症状は多彩で,発熱は37〜42℃あり,3〜5日で解熱するが,半数が2〜3峰性の発熱を呈した。発疹は手首,足背等の末端部に,また,肘膝部,耳の後部から頸部にかけ紅斑が生じ,熱感および掻痒感を随伴した。腹痛,下痢(軟便が多い),嘔気,嘔吐による脱水症状,苺舌の症例も多く,病日の進行に伴い手指および陰部の皮膚の落屑も認められた。また,臨床検査結果は,白血球増多および核左方移動,CRP陽性,GPT,GOTの上昇がみられ,肝機能障害,腎不全を呈するため1ヶ月以上の入院加療を要する重篤な患者も散見された。

 現在,県衛生部および町当局,学校関係者等により,患者への対策並びに再発防止に向けての原因究明が続けられている。動物,土壌等を含む環境衛生調査,さらに給食関係の調査は,従業員の検便,検病調査,給排水系の水質調査,調理加工工程などについて詳細に行われた。とりわけ,3月12日以降の検食および給食センターを経ずに納入された食品については,細菌検査並びに加工施設の立入り調査が進んでいるが,現在までのところ原因食品や感染経路の解明には至っていない。



千葉県衛生研究所 矢崎 廣久,内村 真佐子,三瓶 憲一,小岩井 健司


図.日別欠席状況
薬剤感受性成績





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