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横浜市
1986年4月15日に横浜市内の1幼稚園の4歳児級29人中10人が,かぜのため欠席した。4月18日に登園した21人全員のうがい液が採取され,ウイルス検査の結果,3人からインフルエンザA(H1)型が分離された。検査定点からは,3月10日の15検体中1検体からA(H1)型が検出されていたが,その後4月15日までの5週間の58検体からは検出されず,4月21日の14検体中3検体からA(H1)型が検出された。検査定点からの分離例は5歳から10歳の男子で,最高体温は37.3℃から40℃と報告されている。現在までの分離例は7例にすぎないが,地域としては横浜市中心部から,東京都,川崎市に接する地域で検出されている。4月25日現在中学生以上の年齢の人での確認例はない。
ウイルス分離にはMDCKを用いるが,CPEは強くなく,検体接種から同定までに4日間を要している。また,ヒヨコ血球ではHA価が低い傾向があるため,モルモット血球を併用してHI試験を行い同定している。マウス免疫血清に対する同定HI試験では,81年,83年の分離株抗血清には,ホモの抗体価に対して2管程度低く反応するが,78年,80年の分離株抗血清に対する反応はわずかであった。
WHO週報によれば,1985〜1986シーズンでのA(H1)型の報告例は,中国でのA(H3N2)型との同時流行以外は数ヶ国での散発報告があるのみで,この時期,春季になってからのA(H1)型の活動には留意が必要と思われる。
横浜市衛生研究所
山形県
今冬季の山形県におけるインフルエンザの流行(AH3型)は昨年(1985年)11月末から本年(1986年)1月にかけて患者が発生した。その後,例年患者が多発する2月に入ると,集団発生の報告はまったくなくなった。ところが,ようやく春らしくなった4月12日,突然,県北山間部の尾花沢市寺内にある小さな1小学校(生徒数116名)で,発熱(37〜40℃,大部分の者は37℃台),咽頭発赤およびせきなどを示す患者が多発しているという情報があった。下痢症状を呈した者も若干あった。
本校では,4月9日以前には欠席者および罹患者が認められなかったが,4月10日に3年組(20名)で12名で“かぜ”で欠席したため調べたところ,全校で欠席者15名,罹患出席者15名,計30名の罹患状況であった。3年組は翌日(4月11日)から2日間学級閉鎖の処置がとられた。最終的に,本小学校における罹患率は約50%であった。なお,本小学校生徒の家族にも同様の症状を示した患者が存在していたという情報もある。
4月12日,小学校生徒の有症者10名(9〜10歳)から咽頭ぬぐい液を採取し,発育鶏卵羊膜腔内接種法により,3名からA(H1)型インフルエンザウイルスを分離した。
昨日(4月25日),県西部日本海沿岸の1中学校においてもインフルエンザ様患者発生の情報があり,今朝早く調査に出発した。
山形県衛生研究所 片桐 進
東京都
4月13日採取の江東区深川保健所管内小学校のうがい液7件中4件からインフルエンザA(H1)型ウイルスを分離した。2例はふ化鶏卵とMDCK細胞培養の両方で,1例はふ化鶏卵のみ,1例はMDCK細胞のみで分離された。患者のペア血清のCF価はMDCKのみ分離例が1管上昇であった他はいずれも8倍以下または8倍から16〜64倍に上昇した。
上記以外に,4月15日採取の八王子保健所管内小学校のうがい液からふ化鶏卵で7件中1件ウイルスが分離されており,ひきつづき検査中である。
東京都立衛生研究所
仙台市
仙台市では1986年4月に入って,発熱,咳嗽,咽頭痛,頭痛の他に足腰の筋肉痛を伴うかぜがめだっていたが,我々は感染症サーベイランスの検査定点である市内S内科医院で,4月9日に採取した33歳主婦の咽頭ぬぐい液から,4月24日にインフルエンザAソ連型ウイルスを検出した。
ウイルスはふ化鶏卵とMDCK細胞の両者で分離され,インフルエンザセンターキットを用い,A(H1N1)型と同定された。すなわち,分離株A/SC/10/86は抗A/バンコク/10/83(H1N1)に対し1:128で,抗A/山形/96/85(H3N2),抗A/フィリピン/2/82(H2N2),抗B/ノルウェー/1/84に対してはいずれも1:16以下であった。
前記S内科医院で採取した咽頭ぬぐい液は4月に入って14例であるが,他の2例(1例は前記主婦の長男,13歳)からもMDCK細胞でインフルエンザウイルスが分離されており,現在同定中である。
なお,国立仙台病院ウイルスセンターでも4月に入ってしないSP病院の咽頭ぬぐい液90例から4株のA(H1N1)型ウイルスを検出している。
仙台市衛生試験所 熊谷 正憲,熊坂 満郎,菅原 恵,角田 行
分離株同定試験
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