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埼玉県において,1986年4月22日頃より県南部を中心に数校の小学校で発熱を主徴とした不明疾患による欠席者が増加した。そのため学級閉鎖にふみきった学校が続発し,県教育局の調べによると4月22日から26日までにその数は小学校9校で14クラス,中学校1校で1クラス,合計15クラスにものぼった。
今回最初に入手した情報は4月22日に県衛生部からの2校の学級閉鎖発生例,蕨市西小5年1組で39人中12人欠席,4月22日〜24日閉鎖,新座市陣屋小2年1組で33人中15人欠席,4月23日〜24日閉鎖,2校の症状は発熱,嘔吐,腹痛という通報であった。一方,寄居保健所(県北部)からも同じ日に花園町花園小で発熱を主症状とした疾患が多発し,1年5組36人中7人欠席,4年生170人中29人欠席のため4月23日〜24日に学級および学年閉鎖の実施を行うという報告があった。また,翌23日,24日と相次いで県衛生部より上尾市,浦和市の小学校で類似疾患による3クラスの学級閉鎖の発生報告があった。
初発時には,ウイルス性胃腸炎かアデノウイルス感染症を疑ったが,学級閉鎖の続発と症状のうち,特に「発熱」がすべての学校に共通していた点からインフルエンザの可能性を考え,最初の発生校3校についてウイルス分離と,2校については血清学的検査も行った。ウイルス分離は咽頭ぬぐい液21例について,4例は発育鶏卵,残りはMDCK細胞培養で実施した。結果は表1,2に示した。ウイルスは21例中14例(66.7%)から分離され,すべてA(H1)型であった。血清学的検査の結果,ワクチン株と分離株に対するHI抗体価にかなり差が認められた。
なお,浦和市のサーベイランス定点で4月24,25日に5歳と7歳のかぜ様患者から採取された検体からもA(H1)型が分離された。
埼玉県衛生研究所 村尾 美代子,戸谷 和男
表1.花園小のウイルス分離成績
表2.小学校のウイルス分離と血清学的検査成績
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