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Vol.7 (1986/6[076])

<国内情報>
わが国で分離されたクラミジアトラコマチスの血清型


 クラミジアトラコマチスには15血清型(A〜K,Ba,L1〜L3)があるが,この血清型には地域特異性があることがわかっている。すなわち,トラコーマの流行地ではBaを含むAからC,非流行地ではDからKの血清型が主体であり,非流行地の中でもアメリカ,ヨーロッパではD−E型が全分離株の約50%,G−F型が25%近くを占めていると報告されている。

わが国でもクラミジア感染症に対する実験室内診断法の確立に伴い,尿路性器疾患を中心に患者からのクラミジア分離が盛んに行われるようになってきた。そこで分離株の血清型同定法について紹介するとともに予研で行った分離株の同定結果について報告する。

分離株の血清型同定法

 分離株の血清型同定は,同株で免役したマウスの血清を各血清型の標準株で作製した抗原と反応させて型別するという間接的な方法で行う。したがって免疫原とする分離株の感染価の増強が必要となる。まず,平底培養管を用いて初代と同様に遠心吸着法による培養を繰り返す。細胞に形成される封入体数が400倍の顕微鏡下で20〜30個観察されるようになったら培養管6本分の細胞を3mlのSPGに浮遊させ,これを免疫原とする。マウスは5〜6週齢のもの2匹を用いる。各マウスに免疫原を0.5mlずつ静脈内注射し,7日後に同量を静脈内に再接種,10日後に全採血して血清を得る。型別はトラコマチスの15血清型標準株の基本小体(EB)を抗原とする微量間接蛍光抗体法(マイクロ−IF)で行う。

 マイクロ−IFに用いる抗原はHeLa−229細胞で増殖させたクラミジアのEBを30%ウログラフィンを用いた超遠心により部分精製したもので,粒子数を109/ml程度に調整し,使用時に3%卵黄嚢液と等量混合する。卵黄嚢液加抗原をスライドグラスにペン先で点置する。15ウェルマルチテストスライドを使用する場合,1つのウェルに15血清型全ての抗原を点置する。アセトンで固定した後検査に用いる。

 分離株で免役したマウス血清をPBSで8倍より2倍段階希釈し,10μlずつ各ウェルに載せ湿箱に入れて37℃に置く。3時間反応させた後スライドグラスを取り出し,PBSおよび蒸留水で洗浄し風乾する。次にFITC標識抗マウス免疫グロブリン抗体を各ウェルに載せ湿箱内で37℃30分反応させ,前と同様に洗浄,風乾し,カバーグラスで封入後蛍光顕微鏡で観察する。血清希釈の最も高いところまで反応した抗原の血清型を分離株の血清型とする。CとJ,EとDは交差が強く区別が困難なことが多い。

 患者から分離されたトラコマチスの血清型

 都内の医療センター泌尿器科に来院した患者の尿道および子宮頸管の擦過材料より分離したトラコマチスの血清型を同定した(表)。

 分離株は非淋菌性尿道炎患者(男性)由来27株,子宮頸管炎患者(女性)由来2株の計29株である。血清型ではGが7株(24.1%)と最も多く,次いでEの6株(20.7%),Dの5株(17.2%),Fの4株(13.8%)となっている。残りはB,H,JおよびIでそれぞれ1〜2株(3.4〜6.9%)である。なお表には示していないが,患者の年齢構成は30歳以下12名,31歳から40歳12名,41歳以上5名となっており,分離される株の血清型は年齢の上昇に伴ってD−E,G−Fに集中する傾向がある。

 このようにわが国においてもトラコマチスの血清型別ができるようになった。分離株の血清型は欧米と同様D−E,G−Fが中心であるが,今後例数が追加されればわが国における血清型の趨勢も一層明確になるであろう。



国立予防衛生研究所 萩原 敏且


表.非淋菌性尿道炎および子宮頸管炎患者から分離されたクラミジアトラコマチスの血清型





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