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県南東部の伊奈町(田園地帯)のFSKエンジニアリング(株)(従業員120人,男110人,女10人)で4月25日,発熱,発疹,咽頭発赤を主訴とした9人の患者(男18〜25歳)が発生し,同町の病院で診察した結果,症状は両側頸部リンパ筋腫脹(有痛,無痛の両者あり),咽頭の腫瘍性発赤,発熱は37℃〜39℃,発疹は発熱後拡大,融合傾向が強いということで,当初,伝染性単核症と診断された。しかし,その後「不明の発疹性疾患」ということから4月28日,当管内の大宮保健所より病因究明のための依頼を受けた。
この発生は時期的に,また,最近北海道をはじめ全国各地で風疹の流行が散見されていることから,まず風疹を疑った。埼玉県においても4月14日,蕨市南小2クラスで風疹による学級閉鎖が実施されており,サーベイランス定点からの患者数もやや増加がみられ,その可能性は考えられる。しかし,発疹の出現に「融合性」という点で半ば疑問を持ちながら,その他の発疹性疾患としてアデノ,エンテロを考慮し,検索を進めた。結果は表1,2に示した。細胞にはHeLa,RD,一部MDCK(患者の妻:かぜ様)を用い分離を行ったところ,すべて陰性であった。しかし,検体のうち,とくに患者No.3,5,8の糞便材料,HeLa2代で完全な陰性と判定し難い不明瞭な変性がみられたため,これをさらにVeroに継代し培養を続けている。一方,患者No.1,7,8(無作為)の咽頭ぬぐい液もVeroに接種し,同様継続中である。
ペア血清の得られた患者7人の風疹HI抗体価に有意の抗体上昇が認められたことから,今回の伊奈寮で発生した発疹性疾患は風疹によることが判明された。なお,患者9人中7人は会社・伊奈寮の1階,独身寮(18室,28人,各室6畳,1室1〜2人)と2階社宅(8室,各室3部屋,4世帯)住んでおり,見取図は図1に示した。また,独身寮の1人(図1※印)は4月8日に発疹,40℃の発熱ということがその後の疫学調査で明らかとなり,今回の発生(4月20日頃)はその患者発生後2週間を経過しており,風疹の潜伏期とも一致することから初発患者の可能性は強い。
埼玉県衛生研究所 村尾 美代子,戸谷 和男
表1.ウイルス分離成績
表2.血清学的検査成績(風疹:HIとCF)
図1.伊奈寮の見取り図
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