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Vol.7 (1986/7[077])

<国内情報>
マイクロプレート法による呼吸器ウイルスの分離


(事務局註:1986年から本月報において仙台病院のウイルス分離報告が集計されています。)



 急性気道感染症(ARI)はインフルエンザ,パラインフルエンザ,RS,アデノ,ライノ,エンテロなど他種類のウイルスを病因とする症候群である。したがって,ARIから病因ウイルスを分離するためには,それぞれのウイルスに感受性のある何種類かの細胞を使用しなければならない。これは大変な仕事量である。そのため,ARIは最も日常的なウイルス感染症であるにもかかわらず,病院の検査室ではルチン検査として行われていない。また,各地の衛生研究所においてもインフルエンザ以外にはウイルス分離によるARIの疫学解析は行われていない。

 われわれはこの問題を解決するために,分離法の簡便化を考え,マイクロプレート法を考案した。これを用いて,1984年12月から現在まで小児ARIからのウイルス分離を行ってきたが,実用的に極めてすぐれていることが証明されたので,方法を簡単に紹介し,われわれの分離成績を報告する。

 方法:マイクロプレートを横に使い,4種類の細胞(HEL,HEp−2,Vero,MDCK)を2列ずつ接種する(頭文字をとって,HHVMプレートと呼んでいる)。咽頭拭い液0.1mlを縦1列(4種細胞各2穴)に接種し,維持液0.1mlを加えて培養する。VeroとMDCKの維持液にはパラインフルエンザおよびインフルエンザウイルスを分離するために,トリプシンを加える。1枚のマイクロプレートに11件接種できる(詳細は第27回臨床ウイルス学会に報告,感染症学会雑誌60巻9号に掲載予定)。

 成績:1984年12月から1985年12月までの間に,仙台市スペルマン病院小児科で毎日約10例の小児ARIから採取された咽頭拭い液を,その日の内にプレートに接種した。

 2,310例の材料から657株(28%)のウイルスが分離された。表1に657株のウイルスがHHVMプレートのどの細胞で分離されたかを示した。インフルエンザA,BはMDCKで,RSはHEp−2,パラインフルエンザ,ムンプスはVero,アデノは主としてHELとHEp−2,エンテロはHEL,HEp−2,Veroで,ヘルペスはHEL,CMVはHELでそれぞれ分離された。すなわち,同定された22種類のウイルスと未同定のエンテロ54株がHHVMプレートで分離された訳である。分離陰性材料をMKで再分離したが,追加分離されたのはわずかに39株であり,エンテロが38株の他はパラインフルエンザが1株だけであった。すなわち,HHVMプレートで主な呼吸器ウイルスは分離できることがわかった。

 表2に季節別の分離状況を示した。小児ARIの臨床材料からインフルエンザが高率に分離され,B型の流行期間中にA型が混ざっていたり,B型の流行後に散発的にA型が検出されるなど興味ある知見が得られた。他にも耳下腺炎のないARIからムンプスが分離されたり,小児ARIから分離されるアデノがほとんど1,2,3型であるなどの知見も得られるなど,ウイルス分離による疫学解析が容易になった。エンテロの同定は現在進行中であるが,抗血清の入手に問題がある。いつでも抗血清が入手できるよう,予研腸内ウイルス部を始め関係各位の御配慮を切にお願いする。

 終りに:マイクロプレート法は大量処理を目的として改良されたものであり,少数例または特別な材料を検査するときはチューブを用い慎重に分離すべきであることは言うまでもない。



国立仙台病院ウイルスセンター 沼崎 義夫,大島 武子,近江 彰
スペルマン病院小児科 小松 茂夫


Table 1.Number of isolates in HHVM and MK plates
Table 2.Viruses isolated from infants and children with ARI employing the microplate method





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