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CA21ウイルスは,1985年カリフォルニアで,Lennetteらにより最初に分離報告され,その後その他の国においても,散発あるいは流行例からの分離が相次いで報告された。わが国においては,1961年福見らが38歳の呼吸器疾患の患者から初めて分離報告した。しかし,それ以来分離に関する報告はみられていない。
1985年10〜11月にかけて埼玉県川越少年刑務所(被収容者:18〜26歳)で,上気道感染症の患者が多発し,患者の咽頭拭い液からCA21ウイルスが分離された。これは,わが国における流行例の分離としては初めての報告であるので紹介する。
患者対象:当所医務室で「感冒」と診断され,当室に入院した被収容者患者。
検体採取:患者10例から急性期(10月17日)に血液と咽頭拭い液,回復期(10月31日)に血液採取した。
患者発生状況:9月6人,10月67人,11月44人と10月に多発した。10および11月の患者数は被収容者総数の約10%にあたる。12月には14人に減少し,1月以降平常に復した。日別発生は1日平均1.8人,最高は8人で10月15日であった。
ウイルス分離および血清学的検査成績:インフルエンザ分離は陰性,血清学的にもその感染は証明されなかった。
HeLa,RD細胞培養による分離の結果,CPEはRDでは10例とも陰性,HeLaでは10例中9例陽性であった。CPEは明瞭な円形を呈し,その7例は初代の3日目で出現が認められた。HeLa CPE agentの電顕的観察で,エンテロ様粒子(直径30nm前後)が認められた。患者回復期血清を用いて免疫電顕を試みた結果,強度の凝集が認められ,病原体と推定された。このagentは,メルニックプール血清で中和が認められず,酸感受性テストは陰性であった。国立予防衛生研究所ウイルス中央検査部における同定試験の結果,9例中8例がCA21と同定された(1例は検査せず)。
一方,ペア血清においてもCA21に対する中和抗体価に4倍以上の上昇が認められたのは10例中7例,1例は2倍の上昇であった(表1)。
臨床症状:患者の主な症状は発熱,咽頭熱,咽頭発赤などで,最高体温38℃以上が10例中8例に認められた。
中和抗体保有状況:流行前における埼玉県住民(1〜80歳)100例についてCA21に対する中和抗体を測定した。図1に示すように抗体保有率(≧1:4)は,30歳以下0%,30歳以上では加齢とともに上昇を示し,70〜80歳では100%であった。
CA21ウイルスは過去10数年間分離報告がみられず,流行前の一般住民の抗体保有者は30歳以上であったことなどから,近年流行がなく被収容者は年齢的に,おそらくこのウイルスに対して免疫の低い集団であったことが推測される。したがって,この様な特殊な環境において,緊密なコンタクト(昼間工場,約50人単位で作業)が今回の流行に及んだものと思われる。
本流行と同時期に,大宮市医院(定点)の咽頭拭い液材料(風邪患者の高校生,散発)の1例からもCA21が分離され,本ウイルスが,一般市民の間にも散在していたことが証明された。
埼玉県衛生研究所 村尾 美代子
国立予防衛生研究所 松永 泰子
川越市少年刑務所 百瀬 隆人
表1.ウイルス分離と血清学的検査成績
図1.住民の年齢階級別CA21ウイルスに対する中和抗体保有状況
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