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富山県厚生部は,9月29日に小矢部市の蟹谷中学校と蟹谷小学校で,胃腸炎症状を伴う感冒様疾患の患者が多発し,在籍生徒の約10%が当日欠席したとの届出を受けた。そこで,両校の患者発生状況など疫学調査を行うとともに,検査の準備を進めた。一方,市教育委員会では市立のすべての幼稚園(2),小学校(6),中学校(4)で調査したところ,上記2校の他にも多くの小中学校で類似の患者がみられ,市内全域にわたる大規模発生であることが明らかになった。しかし,患者は小中学校に限られ,2幼稚園での患者発生はなかった。詳細な調査が行われた蟹谷中学校の患者の主症状は,頭痛(77.9%),腹痛(63.2%),発熱(50.5%),嘔気(47.4%),上気道炎(27.4%),嘔吐(27.4%),下痢(26.3%)であった。校医の診断は,臨床所見から原因の推定は困難であり,感冒性胃腸炎とのことであった。
他方,同じ9月29日に小杉町立小杉中学校からも,急性胃腸炎の症状を示す患者が多発したことが届出られた。患者の症状は,頭痛,腹痛,発熱,嘔気,嘔吐,下痢であり,小矢部市の小中学校でみられた疾病と酷似していた。しかし,小杉町での患者発生は小杉中学校のみであった。蟹谷中学校と小杉中学校における欠席者と有症登校者の日別発生状況を図に示す。両校ともに27日(土)から患者発生が始まり,29日(月)には急激に増加した。その後,新たな患者発生は急速に減少して4日(土)頃にはほぼ終息状態になった。これらの状況から単一暴露型の感染症が推測された。
小矢部市の学校給食は,市の学校給食センターで調理され,2幼稚園,5小学校,4中学校へ配食されているが,これらのうち2幼稚園で患者発生がなく,配食を受けていない1小学校で患者が発生した。給水系は2校が地下水を利用しているが,幼稚園を含む他の10施設は市の上水道を利用している。一方,小杉中学校の給食は独自に調理しているが,現在のところ特に疑わしい点はみられず,給水系は上水道を利用している。
小矢部地区の小中学校と小杉中学校について細菌,ウイルスの両面から検査を行った。患者,調理員,調理施設のふき取りなどの検体についての検査で,病原性細菌の関与は否定された。一方,ウイルス学的検査では感冒性疾患の可能性を考え,インフルエンザウイルスとエンテロウイルスの検出を試みたが,すべて陰性であった。ところが,ロタウイルスの検査(ロタR−PHA生研,デンカ生研製を用いての抗原検出)で,小矢部地区の患者15名中8名(53.3%)の便が陽性を示し,小杉中学校の患者7名中5名(71.4%)が陽性であった。さらに,小杉中学校の患者便を部分精製濃縮して電顕で精製し,R−PHAの結果と一致してロタウイルスが観察された。血清学的検査では,患者便精製ウイルスとロタウイルスWa株を抗原に用い,受身血球凝集抑制反応(R−PHI)で患者血清の抗体価を測定し,小矢部地区の患者15名中12名(80.0%),小杉中学校の患者8名中5名(62.5%)が,急性期から回復期にかけて4倍以上の抗体価上昇を示した。これらの結果から,両地区ともにA群ロタウイルスの感染による疾病であると結論された。
小矢部市は県西部に,小杉町は県中央部に位置し,両地区の間には高岡市と福岡町があって,地理的にかなり離れているにもかかわらず,患者が同時期に発生した。これらの点も考慮に入れて感染経路などの調査を進めている。
富山県衛生研究所 森田 修行,長谷川 澄代
表.ロタウイルスに関する検査成績
図.有症登校者と欠席者の発生状況
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