|
昨シーズンのインフルエンザは,1985年11月下旬から12月にかけて流行し,川崎市立川崎病院小児科に受診した患児から66株のH3N2型ウイルスをMDCK細胞を用いて分離した。1986年に入ってからは,1月に1株のH3N2型ウイルスを分離したのみで,2月末には外来患児からのウイルス分離作業を中止していた。しかし,4月になってインフルエンザ様疾患の散発に気付き,再びインフルエンザウイルスの分離を試みた。その結果4月2株,5月1株,6月1株のH1N1型インフルエンザウイルスの分離に成功した。これらの症例の概要を表1にまとめた。MDCK細胞で得られたこれらのウイルスは,強いヒト血球凝集活性を有していたが,ニワトリ血球の凝集活性は乏しかった。予研ウイルス3室より分与していただいた抗血清を使用して行ったH1試験による抗原分析では,表2のごとくそのHI価は,A/Bangkok/10/83とは3〜4管隔たっており,A/山形/120/86と同等であった。川崎市衛研でも,5月30日に川崎市高津区の幼稚園の集団かぜから4株のA(H1N1)型ウイルスを分離している。
この時期はずれのH1N1型ウイルスの流行は,夏の間もインフルエンザウイルスがヒトからヒトへと伝播されていることを示唆していると思われる。
川崎市立川崎病院小児科 渡辺 淳,武内 可尚
慶應義塾大学小児科学教室 小佐野 満
表1.H1N1型ウイルスが分離された症例の臨床症状
表2.1986年4月から6月にかけて分離されたH1N1型インフルエンザウイルスの抗原分析
|