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8.腸チフス患者の臨床的検討 1984年
1984(昭和59)年に全国指定都市立伝染病院に入院した腸チフス患者について臨床的検討を加えたので報告する。集計はアンケート調査による。
診定の内訳:腸チフスと診定された症例数は55で,うち49は細菌が同定された症例で,6は臨床症状による診定であった。臨床診定6例中4例は後に他疾患に病名変更された。不明熱が2例,胆のう炎,急性腸炎が各1例であった。細菌決定の49例,臨床決定の2例の合計51例について以後の検討を行った。
同定された菌の由来:表1に示したが,49例中36例(73.5%)は血液から菌が分離され,便から検出されたのは49例中24例(49.0%)であった。胆汁からのみ分離された例が1例あった。
患者の年齢等:表2に示したが,20歳台,30歳台が多く全体の51.0%を占め,小児が12例(23.5%)であった。性別では男がやや多かった。推定感染地は国内が31例(60.8%),国外20例(39.2%)であり,インド・ネパール(6例),インドネシア(3例)が多く,他は東南アジア,アフリカだった。
診定までに疑われた疾病名:表3に示したように,当初から腸チフスを疑った症例は6例(11.8%)であった。不明熱が18例(35.3%)あり,診断が難しかったことを示している。
入院病日:図1に示したが,発症第2週に診定され入院する例が多く,第2週までに28例(54.9%)が診定されている。しかし,22病日以後に診定された例が11例(21.6%)もあることは注目すべきである。
臨床症状:発熱は51例全例に認められ,その程度を表4に示した。25例(49.0%)は最高体温が40℃台であり,有熱期間は21日以下が39例(76.5%)であったが,9例(17.6%)は3週間以上であった。その他の症状を図2に示した。発熱以外の症状がない例は7例(13.7%)であるが,他は何らかの症状があり,下痢,肝腫大,バラ疹,比較的徐脈, 脾腫大が多かった。腸出血は11例(21.6%)にみられ,その病日を図2の下段に記した。第2および第3病週がほとんどであった。
入院時白血球数:腸チフスでは白血球数の減少が知られているが,白血球数4,000/mm3未満が4例(7.8%)あった。8,000/mm3以上は11例(21.6%)あったが,36例(70.6%)は強い炎症反応がありながら白血球数は4,000〜7,000/mm3台であり,正常範囲内だった(図3)。
化学療法と転帰:表5に示したごとく,51例中13例は入院以後に菌は証明されず,すでに除菌されていたと考えられる。入院後施行された化学療法は55コースあり,うち8コースで再排菌が認められた。化学療法は単剤使用と複数剤使用とがあるが,CP(クロラムフェニコール)は47コースで併用され,5コース(10.6%)で再排菌が認められた。合成PC(ペニシリン)は20コース中5コース(25%),セフェム系は4コース中2コース(50%)で再排菌があり,CPの成績におよばなかった。これらの化学療法により51例中3例以外は除菌され,治癒退院している。1例は保菌退院,2例は事故退院した。この3例を除き化学療法後退院までの日数は,20日までが約60%,25日までが約78%であった。
おわりに:全国指定都市立伝染病院にアンケート調査を行い,1984年に入院した腸チフス患者について臨床的検討を加えた。おのおのの検討結果は1982年,1983年の結果と差異はなかった。なお,本稿の主旨は第60回日本感染症学会総会で発表した。
*感染症腸炎研究会参加都市立14伝染病院:市立札幌病院南ヶ丘分院,東京都立豊島病院,同駒込病院,同墨東病院,同荏原病院,川崎市立川崎病院,横浜市立万治病院,名古屋市立東市民病院,京都市立病院,大阪市立桃山病院,神戸市立中央市民病院,広島市立舟入病院,北九州市立朝日ヶ丘病院,福岡市立こども病院・感染症センター
感染性腸炎研究会(会長 斉藤 誠) 東京都立駒込病院感染症科 根岸 昌功
表1.腸チフス患者の確定診断法〔1984年〕
表2.腸チフス患者の年齢別,性別,その他〔1984年〕
表3.腸チフス患者送院までの診断名〔1984年〕
図1.腸チフス患者の入院病日分布〔1984年〕
表4.腸チフス患者の体温〔1984年〕
図2.腸チフス患者の臨床症状および所見〔1984年〕
図3.腸チフス患者の入院時白血球数〔1984年〕
表5.腸チフス患者の化学療法と転帰〔1984年〕
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