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Vol.8 (1987/3[085])

<特集>
腸チフス・パラチフス 1985−1986


1985年の腸チフス発生数は患者・保菌者あわせて253例,パラチフスA47例であったが,1986年は腸チフス202例,パラチフスA31例で,いずれも前年を下まわった。ここ数年発生数の減少傾向が続いているが,集団発生の減少も一因であろう。1985年には静岡県のD1型(9名,3〜4月),広島市のD2型(6名,1月),1986年は広島県のM1型(5名,2〜3月)と,小規模の流行をみたにすぎない。

 両疾患の月別発生状況を図1に示したが,いずれも4〜6月にピークをもつ発生パターンを示し,本疾患の特徴とされていた冬期多発傾向は失われている。生がきを原因とする冬期流行の減少,輸入例が冬期に少ないことの反映であろう。

 腸チフスの輸入例数は1985年42(17%),1986年46(23%),パラチフスAの輸入例数はそれぞれ29(62%),10(32%)であったが,国内発生数の減少とあいまって輸入例の比率が高くなっている。

腸チフス患者は20〜30歳台の男性に,保菌者は高齢の女性に多発する傾向は従来どうりであったが,パラチフスAでは患者・保菌者とも男性が多かった。また,腸チフス,パラチフスともに輸入例の80%以上が男性患者で占められており,そのうちの約90%が20〜40歳の青壮年層に集中していた(表1)。

 腸チフス,パラチフス患者の診定はそのほとんどが細菌学的になされており,前者は366例中316例(86%),後者は64例中63例(98%)であった。臨床診断の比率は低く,腸チフスの27例(7.4%)にすぎなかった(表2)。発病から診定までに要した日数の幾何平均は腸チフス13.9日,パラチフス14.8日であった。

表3は分離用検体を患者,保菌者に分けて示したものである。両疾患とも患者の66%は血液材料から菌の検出がなされているが,この数値は従来に比べてむしろ低い。保菌者では便,胆汁からの検出率が高かった。

表4にチフス菌の,表5にパラチフスA菌のファージ型分布を示した。1985,86年ともにD2型,M1型の検出頻度が高かった。1985年はUVS1も高率(11%)に検出されたが,本型は従来そのほとんどが輸入例から分離されていたものである。

分離株のすべてについて薬剤感受性試験を実施したが,1985年にはチフス菌,パラチフス菌とも耐性菌の出現をみなかった。1986年にはTC耐性,CP・ABPC・KM・STの4剤耐性のチフス菌2株が検出された。いずれもファージ型はDVSで,輸入例あった。わが国で初めてST耐性チフス菌が分離されたこと,しかもCPおよびABPCの両剤にも耐性を示したことは本疾患の治療の困難性とあいまって注目すべきである。



図1.腸チフス・パラチフスの月別発生状況(1985年,1986年)
表1.患者・保菌者の性・年齢別分布(1985年1月〜1986年12月)
表2.腸チフス・パラチフスの診定方法と分離菌株のファージ型別供試状況(1985年,1986年)
表3.チフス菌,パラチフスA菌の分離用検体(1985年,1986年)
表4.チフス菌のファージ型分布(1985年,1986年)
表5.パラチフスA菌のファージ型分布(1985年,1986年)





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