|
9.パラチフス患者の臨床的検討 1984年
1984(昭和59)年に全国指定都市立14伝染病院に入院したパラチフス患者について臨床的検討を加えたので報告する。集計はアンケート調査を基にして行った。
診定の内訳:パラチフスと診断された症例数を表1に示した。細菌決定による診定のうちパラチフスB,Cの各1例が他のサルモネラ腸炎であることが判明し,臨床決定のパラチフスBは感冒であった。以後この3例を除いた36例について検討した。
同定された菌の由来:パラチフスAでは血液からの分離が13例中12例(92.3%)と高率であり,一方パラチフスBでは23例中3例(13.0%)と低く,両者の臨床像の違いを明確に表していた。すなわち,パラチフスAはチフス型,パラチフスBは腸炎型であった。
患者の年齢等:表2に示したが,パラチフスAは成人のみであり,半数が20歳台であったのに対し,パラチフスBは集団発生が3件,8例であったのを反映して小児例が14例(60.9%)を占めていた。パラチフスBは全例が国内での感染例で,パラチフスAは13例中9例(69.2%)が国外での感染例であった。
診定までに疑われた疾患名:表3に示したごとく,ここにもパラチフスAとBの臨床像の違いが表面に出ている。パラチフスAでは,不明熱が7例(53.8%)であり,急性腸炎は1例にすぎず,全身性の疾患が疑われていた。一方,パラチフスBは11例で腸管系の疾患が疑われ,これは全体の47.8%を占めていた。
入院日:図1に示したが,パラチフスAは発病第1週に4例(33.3%),第2週が4例,第3週以後が4例で,1例が不詳であった。パラチフスBでは12例(52.2%)が発病第1週に診定され,第2週までに21例(91.3%)が診定されていた。
臨床症状:表4に示した。パラチフスAでは38℃以上の発熱が全例にみられ,比較的徐脈,下痢,脾腫,バラ疹,肝腫など多彩な症状がみられた。一方,パラチフスBは発熱が16例(69.6%)にみられたが,発熱と下痢以外の症状は無かった。
入院時白血球数:パラチフスAでは,白血球数8,000/mm3以上の症例は1例も無く,4,000/mm3未満が2例(16.7%)あり,他はすべて4,000〜7,000/mm3台と正常域であった。パラチフスBでは8,000/mm3台と10,000/mm3以上が2例あったが,その他はパラチフスAとほぼ同様であった(図2)。
化学療法と転帰:表5に示したが,パラチフスA13例中4例(30.8%)が,パラチフスB23例中7例(30.4%)が入院後に菌は証明されず,既に除菌されていたと考えられる。入院後施行された化学療法は,パラチフスAで14コース,パラチフスBで22コースであった。治療後の再排菌例数を表中の( )内に示したが,パラチフスAではCP単剤投与4コース中2コースで認められた。しかし保菌退院は無かった。パラチフスBでの化学療法は多種にわたり,再排菌は5コース(22.7%)に認められた。今回の集計ではどの薬剤が最適かは明確でないが,FOM,CPFXが比較的良好な結果であった。パラチフスBには2例の保菌退院があった。
化学療法後退院までの日数はパラチフスAでは20日までが約38%,25日までが約75%であった。パラチフスBでは10日までに約65%が退院し,約96%が20日までに退院していた。
おわりに:パラチフスAとBとでは臨床像の違いがはっきりしていた。Aは全身性のチフス型,Bは腸炎型であった。パラチフスAは前回報告した腸チフスの臨床像とよく似ていた。
全国指定都市立伝染病院にアンケート調査を行い,1984年に入院したパラチフスA,Bの患者について臨床的検討を加えた。本稿の主旨は第60回日本感染症学会総会で発表した。
*感染性腸炎研究会参加都市立14伝染病院:市立札幌病院南ヶ丘分院,東京都立豊島病院,同駒込病院,同墨東病院,同荏原病院,川崎市立川崎病院,横浜市立万治病院,名古屋市立東市民病院,京都市立病院,大阪市立桃山病院,神戸市立中央市民病院,広島市立舟入病院,北九州市立朝日ヶ丘病院,福岡市立こども病院・感染症センター
**この年はパラチフスB菌によるものはパラチフスとして取り扱った。
感染性腸炎研究会(会長 斉藤 誠) 東京都立駒込病院感染症科 根岸 昌功
表1.パラチフス患者の確定診断法(1984年)
表2.パラチフス患者の年齢,性別,その他(1984年)
表3.パラチフス患者送院までの診断名(1984年)
図1.パラチフス患者の入院病日分布(1984年)
表4.パラチフス患者の臨床症状および所見(1984年)
図2.パラチフス患者の入院時白血球数(1984年)
表5.パラチフス患者の化学療法と転帰(1984年)
|